痛ましい事件だ。
いま、詳細を確認しようと「自殺」「練習」で検索したら・・・まとめサイトなんかもある。
http://hamusoku.com/archives/7237765.html
http://news020.blog13.fc2.com/blog-entry-2519.html
なんとも・・・なあ。
渦中にいる年齢の子・・・はこのブログなんか読んでいないと思うけど、その関係者などを通して、口コミで伝わるかもしれないので、けっこう有名な、とある古典(といっていいと思う)を紹介したい。
あ、5年前に中公文庫にうつっているのか。
中学生の慎治は同級生の執拗ないじめで、万引きを強要されるまでに追い詰められた。自ら命を絶つことを考えるようになる慎治。一方、その万引き現場を目撃した担当教師の古池は、慎治をガンダム・スクラッチ・モデル制作の世界に誘う。初めて自分の居場所を見つけた慎治。しかし、万引きの後始末はもつれにもつれ…。新しい世界を垣間見た慎治の「再生」が始まる。
- 作者: 今野敏
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/08/01
- メディア: 文庫
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自分は浅羽通明のメルマガに書かれた書評で、この本を知ったんだよな。
ちょっと教育界を描いたエンターテインメントの歴史に詳しいわけではないけど、この作品(1997年発表)が画期的だったのは
・教師が金八先生や「ルーキーズ」のような熱血献身教師ではない。むしろ「俺は面倒が嫌いだ。オマエにいじめで自殺でもされるとその面倒が増える。だから(消極的に)助ける」というハードボイルドな感じで接すること(最初はね)
・「いじめが苦しいなら、とりあえず逃げりゃいいじゃないか」という答えを用意したこと。これは教育学とかの世界では論じられていたかもしれないし、今ではけっこう一般化された認識だと思うが・・・たぶん最初に発表された当時、エンターテインメントの中では非常に珍しい視点だったんじゃないかと思う。
http://blogs.yahoo.co.jp/wsunqk3eqif7eb/33478046.html
から孫引く。
「さあな・・・。戦うのが一番だ。言ったろう。それで相手を殺しちまってもしかたがないって。でなければ、殺されちまうんだろう?」
慎治はしばらく考えていた。やがて言った。
「いや・・・・。やっぱり、僕にはできそうもありません。」
「じゃあ、逃げるんだな。それがてっとり早い」
「逃げ場所なんてありませんよ。毎日学校には来なきゃならないんだし・・・」
「学校なんて来なくていいさ」
「え・・・・」
「おまえ、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだろう?学校なんて来なくていい」
「先生がそんなこと言うなんて・・・」
「それで勉強が一年遅れたとする。一年なんて長い人生からすればどうってことないんだ」
「でも・・・・。親がうるさいし・・・」
「だからな・・・。そうやって、あっちもこっちも立てようとするから追い詰められるんだ。死ぬつもりだったんだろう。なら、親が何言おうがいいじゃないか。何が大切で何が大切でないか、わからなくなっているのが、今のおまえだ・・・」
「親に叱られたりするの嫌だし・・・」
「なら、学校に行っているふりしろよ」
「え・・・」
「おまえ、本当は死にたいわけじゃなくて、別の世界に逃げたいんだろう?」
「そうかも・・・」
・そして、学校の成績や、生徒のクラス内序列(スクールカースト)とはべつの世界があるんだ、というのを、オタク趣味である「ガンプラ」の世界を描いて例示したところ。これも、今2012年のガンダム趣味の一般化と、当時(1997年。余談だが、主人公の名前は同年代の伴奏者である「エヴァ」からとられたという)ではかなり違っていたはずで、さらに一般的な小説に「ガンダム」「ガンプラ」が出てくるところは非常に斬新だった・・・と記憶している。自分の感覚なので、客観的にそうであったかはちょっと調べないと判らない。
もっとも「ジャンルがガンプラというオタク趣味なだけで、渋い大人が迷えるいじめられっこ少年を導いて”男”に育てるというハードボイルドの焼き直し」という論評も読んで、それはそれなりに納得いくのだが、ならその『焼き直し』ぶりを評価したいところだ。
うーん、まあね、これがいじめ問題の唯一無二の処方箋かというと・・・ちょっと違うかも、というひっかかりがあるが・・・もともと唯一無二の処方箋なんて無いか・・・処方箋のひとつ、であることは間違いないと思うし、この本で救われる子は常に一定数いると思う。
いじめが一番悩みとなる世代の子、あるいはその親御さん。
ひとつの選択肢、としての「慎治」という小説があるよ・・・ということだけでも、心にちょっととどめておいてください。
本当は、これを知った浅羽通明のメルマガ、そして本自体からもっと印象に残る言葉を紹介したかったんだけど・・・また例によって、どこにあるかが分からん!
現物を見つけたら、また紹介することができるかもしれない。
浅羽通明の「慎治」評は、この本にもちょっと出てきたかな?
- 作者: 浅羽通明
- 出版社/メーカー: 時事通信社
- 発売日: 2000/06
- メディア: 単行本
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http://www.meijigakuin.ac.jp/~inaba/asaba.htm
みなもと太郎のマンガ『風雲児たち』の描く江戸時代、開国と維新の知的準備をしてきた「無用の人」たちの知が、また今野敏の小説『慎治』でいじめられた少年を立ち直らせるオタク道がそうであるような「教養」はたしかに存在する・・・