3日の憲法記念日に先立ち、自民党が改憲案を発表した。
『日本国憲法改正草案』( http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/116666.html )
それをきっかけに「義務」「公共の秩序」などが話題になり、「憲法が対象とするのは国民か権力か」論が再注目された。いま、検索でかなり適当に選んだが批判的なものとしてたとえば
http://togetter.com/li/294319
がある。
それで5年前の記事を思い出した、というところで表題。
法哲学者のブログ「おおやにき」より。
http://www.axis-cafe.net/weblog/t-ohya/archives/000242.html
「憲法は国家権力に制約を加えるためのもので国民の義務が規定されるのはおかしい」などという妄言俗説をたしなめるどころか助長している人々が当の憲法学者たちの中にいる
ええっと驚いて、氏に問うたのは誰あろう小生。
Gryphonさんのコメント (2005年11月 6日 01:34):
「憲法は国家権力に制約を加えるためのもので国民の義務が規定されるのはおかしい」などという妄言俗説をたしなめるどころか助長している人々が当の憲法学者たちの中にいる」
これが妄言俗説であるゆえんを書いたエントリは、今までのこちらのブログの中にありますか?保守革新をとわず、非常に人口に膾炙した理論で、間違っているとしたらどう間違っているかに興味が有るので。私なりの解釈(以前ですが)はTBさせていただきましたTBしたのはhttp://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051106#p3 「主権」の在り処が変わったからか?という仮説でした。
それへの回答をそのまま転載
おおや さんのコメント (2005年11月 6日 17:03):
>Gryphonさん
ども。そういやちゃんと書いてないんですが、きちんと書こうとするとちょっとステップ数が増えることに気付いたので(社会契約と実定憲法の違いと、しかしそれがエクスキューズにならないことを言わないといけないのですが、originalismの問題なんかがあるのでちょっと難しい)、とりあえず直感的な話として実例から挙げると日本国憲法26条2項(教育の義務)・27条1項(勤労の義務)・30条(納税の義務)というのがあるわけで、まあ「憲法に義務を書くのはおかしい」派の人たちが「だから日本国憲法を改正しよう」とまで断言したらちょっとは尊敬しますが実定的にはまず誤りですね。ちなみにドイツ連邦共和国基本法6条(2)(教育を受けさせる義務)、12a条(兵役義務と役務義務)、14条(2)(所有権には義務が伴う)というのもあるので日本だけが違うというわけでもないです。
英米仏という市民革命の先進国にはないと言い始める人がいるかもしれないのですがつまりここがキモであって、たとえばフランス人権宣言(1789)13条は租税の公平な分担を定めており。これは租税負担の義務があるという前提で考えないと意味がない。アメリカ合衆国憲法8節(1)は租税賦課の権限を連邦議会に認めており、これも反射的に国民の義務が発生すると考えないと無意味である。つまりどちらかというと国家の権限構成で書いている憲法と国民の義務構成で書いている憲法があるけれども、いずれにせよ憲法が国民の義務を規定するものでないとはまったく言えないと言うことになるでしょう。
なんでこういう違いがあるかという点については、ご指摘のように歴史的な問題として君主の絶対的な主権を前提にしてそれに制限を加えるという考え方で書いた時代と、新たに国家権力と人民の関係を取り決めるという感覚で書いた時代の差というものもあるだろうと思います。
私の考えではしかし、根本的な問題はそこで規定される義務が「国家」という存在を想定しない限り意味をなさないものか(eg. 国を愛する義務)、市民相互間の権利の反映として理解できるものか(eg. 国を裏切らない義務)という点にあります。前者を規定するのはおかしいという話なら理解できるのですが、義務をすべて一緒くたにして否定する発想というのは、実のところ国家というものを市民の合意を離れた実体として想定しているわけですから、国家に対する幻想の強化に貢献しているよな、と思うわけではあります。
ええと、最後の方がわかりにくいと思うのですがきっちり書く暇がないのでこのあたりでご勘弁。
何しろ小室直樹あたりまで含めて「憲法は国民が国家権力を縛るもので、その逆ではないんだよ!」「な、なんだってー!」は多くの憲法論の入門書で、最初のクライマックスに設定されているからね。
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大屋雄裕氏の一般向け著書にはこういうのがある。
かつてより快適な暮らしが実現した現代社会。各人の振る舞いは膨大なデータとして蓄積され、“好み”の商品情報が自動的に示される。さらにはさまざまな危険を防ぐため、あらかじめ安全に配慮した設計がなされる。こうして快適で安全な監視社会化が進む。これは私たち自身が望んだことでもある。しかし、ある枠内でしか“自由”に振る舞えず、しかも、そのように制約されていることを知らずにいて、本当に「自由」と言えるのか。「自由」という、古典的かつ重要な思想的問題に新たな視角から鋭く切り込む。
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