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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

保科正之が、兄の将軍家光から鷹を借りた話

ちょっと、前近代の世界の「善政」について調べてみたいと思って、まずは「風雲児たち」や「3月のライオン」でおなじみの保科正之(初代会津藩主、徳川家光の弟で長く家光および次の将軍家綱を補佐した)の本を読んでみた。現在、彼の最良の語り部となっているのは直木賞作家でもある中村彰彦氏(贔屓の引き倒しのきらいも無くはないが)だが、その本より逸話、エピソードを。
一部自分の現代語訳を挿入した。

慈悲の名君 保科正之 (角川選書)

慈悲の名君 保科正之 (角川選書)

寛永19年、正之が家光から江戸城にほど近い将軍家遊猟の地で鷹狩りをおこなうことを許されたときのエピソードが伝わっている。
正之2日間鷹狩りを楽しんでから、獲った雁二羽を家光に献上すべく江戸城に登城した。同席した老中酒井忠勝
「御城内は鳥もおびただしきことにこれあるべく、定めて獲多く候わん」
(※猟場は鳥も多いですから、獲れた獲物も多かったでしょうなあ)
と家光の面前でたずねると、正之は答えた。
「左様にこれなく、わずかに献じ候どおりに候旨」
(※そうではありませんでした。獲れたのは献上したものだけです)
献上した二羽しか獲れませんでした、と正之はいったのである。これには酒井忠勝も驚き、家光も面白くなさそうな顔をした。
その家光が退出してから、忠勝は正之をたしなめた。
「先刻はあまり直なる仰せられ方」
(※さきほどはあまりに正直すぎる言い方ではありませんでしたか)
馬鹿正直にもほどがある。
おかげさまでたくさん獲れました、今日はその一部を献上させていただきます、などといえば将軍も御機嫌がよろしかったのに、と忠勝はいいたかったのだ。
対して正之は、こう返事した。
「拙者もその儀存ぜぬにはこれなく候えども、上を欺き候は小事たりともあるまじきことに候間、実を以て申し述べ候由」
(※私もおっしゃる意味は分かります。しかし将軍(兄)をあざむくことは、些細なことでもあってはならないと思うので正直な数を言ったのです)
忠勝はこの決意のほどを聞いて、はなはだ感嘆したという。

関連リンク

■復元CG作られ「江戸城天守閣再建」運動が進む…だが、再建されないことにもドラマはある(風雲児たち
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100620#p5

ん?こんな動画も見つけました。

ちなみに保科正之は家光の異母弟。ということは父親は徳川秀忠で、母は「江」ではないということです。
戦国時代で屈指の嫉妬深さを誇った「江」(お江与の方)は、こういう女性とその子どもに危害を加えることなど平気のへいざというキャラ(と、少なくとも周囲からは思われていた)なので、ぶっちゃけ正之の母は遠くへ逃げて、秘密裏に出産したのであります。
ドラマ「江」にそんなエピソードが出てくればおもしろいんだがなあ(笑)
見て無いからなんとも言えませんが。