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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「ソーシャル・ネットワーク」を見て。”知的エリート””理系クン”の光と影…ではなく、もっと普遍的な。

映画「ソーシャル・ネットワーク」を見てきました。

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)

まず思ったのは「主人公がギルバート・メレンデスに似てるなあ」と。
(※ここで更新が反映されないエラーがあったが、短時間で復帰できた)

という小ネタをクリアしたところで、本題に進みます。
以下,ネタばれも気にしませんのでご注意を
え?もうDVD出てるの?同時発売??…ああ予約受付か。

まず前提。ストーリー自体はすっきりしねえ。基本、現在進行の実話だしね。

ざっくり、ストーリーの骨格だけ箇条書きにするよ

・主人公マークはハーバード大の優秀な生徒だが、プログラムの知識を利用した悪ふざけが学内で問題となり、評判が悪かった。
・しかし、ある学内の人気者(親が金持ち・五輪級のスポーツマンであるウィンクルボス兄弟、以下「リア充ブラザーズ」と称する(笑))が「大学内のSNSを作らないか?」と彼にオファーする
・マークはそれを引き受けたものの「俺ならもっとうまく出来る」と思ったのか、信頼できる友人サベリンとこっそり、似たコンセプトのSNSを独自に作ってしまう。当然リア充ブラザーズは激怒。
・マークらが作った「ザ・フェースブック」は確かに性能が良く、どんどん人気に。会社にもなり、友人はCFOに。そこに人気のP2Pソフト「ナップスター」で一世を風靡したが、結局著作権問題などで挫折したショーン・パーカー(彼は「ザ」を取れとアドバイスし、「フェースブック」に変わる)も加わり、全世界に猛烈な勢いで発展していく。
・だが着実に企業を廻り、地道に広告を入れて利益を上げようとするサベリンCFOと、「広告なんてクールじゃない」「まずは加入者を増やして10億ドル企業になろうぜ」というマーク&パーカーコンビとの溝が深まっていく。サベリンはその後、事実上の失脚をする。
・パーカーはその後、未成年との性的関係や麻薬容疑で自ら失脚。結果的にマークひとりが生き残った。
・しかしリア充ブラザーズはアイデアの盗用を主張し、サベリンも自分の追放を不当としてマークを告訴…。映画はその民事訴訟(和解交渉?)の場と、大学時代の回想を織り交ぜて進んでいく。

==========
<結末>
そして最後は、要は「和解がまとまった」ということをテロップで知らせるだけ、さらにその和解では「和解の経緯についての守秘義務」もあるとして、詳しいことは不明のまま終わる。

これは仕方ないんだろうね。
和解交渉とか終わったの、2008年なんだってさ。フェースブックは成長の一途をたどり、ジャスミン革命のように一国の命運を動かすテコにもなり得るパワーを持ったが、あまりにも最近のこと過ぎる。オープニングシーンの話だって、なんと2003年のことだぜ。どれもこれも「尻切れトンボ」になるのはある程度仕方ないとは言えると思う。
ただし、普通に映画の文法を期待すると「ここで終わり?」な感じは生まれるし、また頭から順にたどると、映画的なクライマックスを感じさせるようなエピソードやシーンも実はない。
この前。町山智浩氏が実写版「ヤマト」から話をつなげて「映画はどんなに構成が破綻しても矛盾があっても『俺はこれを描きたい!』という情熱に満ちたシーンが描かれていれば合格なんです」と言っていたが、個人的には「ソーシャル・ネットワーク」に対してすぐに「ここが見所!」というシーンは示しにくい。
まあ主人公のすごさは、猛然とキーをたたいてプログラムするところでしか基本、表現できないからな(笑)。スケットダンスの主人公より能力地味。
 

そりゃ今、下世話な話や批判も交えて映画「実録!ホリエモン」や「孫正義の真実」を作ったらヒットするよね。

批評家の評価も高いようだけど、そういうキワモノ性も確実にアメリカでのヒットにはあるんじゃないかと思う。ただ当然、そこには大きな「訴訟リスク」も存在するわけで、そこにチャレンジして乗り越えたことも賞賛に値すると思う。まあオリバー・ストーンの「ブッシュ」もあったね。
日本ではたとえば、

ヒルズ黙示録 検証・ライブドア (朝日文庫)

ヒルズ黙示録 検証・ライブドア (朝日文庫)

ヒルズ黙示録・最終章 (朝日新書)

ヒルズ黙示録・最終章 (朝日新書)

とかとか、

美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史 (講談社BIZ)

美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史 (講談社BIZ)

■「ゲーム界のナポレオン」久夛良木健が世界を掴み、世界を失うまで
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080228#p8
■「サーバーは衛星軌道がいいか」 ゲーム開発ではなくコンピューター開発者であった久夛良木健の栄光と没落の軌跡
http://d.hatena.ne.jp/otokinoki/20080223/1203721444

なんかを映画化したら面白いだろうかしら。

ハーバードの連中も、シリコンバレーの連中も、煎じ詰めれば「色とカネ」?

であることを確認する、というのも、あちらの映画の受容ポイントなのかもしれないな。ハーバードは確かに世界の知と権力を牛耳るエリートを生み出してきたし、これからも生み出すだろう。サンデル教授の授業は白熱教室だろう(笑)。
しかしそれでも、おなじみの大学内「クラブ」は日本の三流私大の応援団と変わらないような無意味なイジメやシゴキ、無軌道なパフォーマンスを繰り返し、これに耐える根性があって初めて入会できる(そしてまた、それが実際に社会に出た時のコネになる!)。
そこの学生で、後にビリオンダラーになる男も「あー、そういうクラブに入りてー」と羨望し、恋人にはべらべらと一方的にまくしたてて(字幕が追いつかん。たぶん五分の一も訳してない)、あげくのはてには「君はボストン大だから気楽だねえ」みたいなド失言をかまして、当然ながら怒った恋人にフラれる(笑)。
 
そしてフェースブックが生まれるきっかけとなる、マークが起こした「問題」とは…フラれた腹いせに大学のコンピュータをハッキング、女子学生の写真を集めてはそれを2人ずつ表示し、ワンマッチ形式で「どちらの女性が好み?」と投票させる…そんなタチの悪いイタズラサイトを作るという騒動だった。
それを見てマークに声をかけたリア充ブラザーズたちが「ハーバード大のSNSを立ち上げよう」と言い出したのも「ハーバード大ドメインを誇示すれば、それに釣られる女の子は多い。釣り放題食い放題だぜ!」とゆー、不純極まりない動機からだったという。
 
どれも世間知らずの学生らしい、たわいもない万能感や悪ふざけだ…という以上でも以下でもないとは思うが、それをするのが世界に名を知られたハーバードの学生たち、という点が、やはりこの作品に興味を持たせる部分ではある。「ハーバードは紳士たれ」という教えが枷になり訴訟を躊躇するとか、ニワトリを連れ歩く試練を「クラブ」から課せられ、そのニワトリにフライドチキンを餌としたら「共食いをさせるとは動物虐待だ!」と学内新聞で問題になる…など、どうもわけ分からん部分も無くはないが、ビリオンダラーや五輪選手たちの、俗でかっこ悪い部分はそれなりに楽しめるエンターテインメントになっていると思う。

理系(人)ギャグはあまり無かったかな?

「はじめにフェースブック創始者が映画になった」と聞いた時、”理系、エンジニア”らしさをカリカチュアライズしたところに重点が置かれるのかな?と思ったんですね。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100703#p4
でまとめて紹介しているけど

エンジニアのメンタリティを理解するジョークその2
コップに半分入った水を見て……
楽観主義者: まだ半分ある
悲観主義者: もう半分しかない
エンジニア: このコップは必要に対して2倍大きい。

とか、

理系の人々

理系の人々

理系の人々 2

理系の人々 2

理系クン

理系クン

シブすぎ技術に男泣き!

シブすぎ技術に男泣き!

工場虫

工場虫

とか。理系クンは続編まで出ているから、人気があったんだろう。
理系クン 結婚できるかな?

理系クン 結婚できるかな?

おや類書まで出てるわ。
ワタシの夫は理系クン

ワタシの夫は理系クン

オープニング場面での恋人との分かれや、それでブチ切れたマークが「どっちが美人か、決めやがれ」サイトを作る所を見て、おっ?そういう期待通りかな?と思ったんだが、その後はそういう愉快犯的な部分はなりを潜める。

まあ
これも事実の制約というもので、やはり世界最年少のビリオンダラーとなるためには、仲間を裏切ったり、相手をだましたりといったことができる人でなければならない。
そういう点では善悪を超えたマークの「人間力」はあるんだろう。
ただ、理系独特の…ってことはないですがステレオタイプ的なマッドサイエンティスト・マッドエンジニアが持つ「イノセントなはた迷惑さ」みたいなところを、ややフィクションよりにしてでも強調してほしかったなあ、というのが個人的な好みとしての評価。
たとえばあのリア充ブラザーズのコンセプトをパクって?勝手に自分のSNSを作っちゃう動機を「奴らを出し抜いて俺が儲けたい・目立ちたい」というより「あいつらのアイデアはダサすぎる!俺ならこれこれこうするんだ!」というナード(オタク)的情熱の成さしむるものであった、という描き方のほうが、俺にとって主人公は面白くなった。
理系伝説はやっぱり「面白がってやってたことが自然とビッグビジネスになった」という描き方のほうがすっきりする。
 
自分のこういう「イノセントで浮世離れした学者・技術者がマイナス・プラスどっちにも転ぶ」というのが好みだっていうのは
もやしもん」や「動物のお医者さん」好みや
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051117#p2
ポール・エルディシュに対して持つ興味
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20040907#p1
そして何よりこの前ささやかに評判になった「内海課長」論にも通じるのでしょうな、と自己分析しておく。
ゆうきまさみデビュー30年の年に、あらためて「内海課長」を考える。
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20101202#p2
 
実はこの映画はそういう部分も、俺が感じた以上に含まれているのかもしれない。というのは上にもちょっと触れたように主人公は極めて早口多弁で、絶対に字幕は、物理的に言っても発言の多くをこぼれ落としている。またアメリカ大学文化に精通していれば、服装や背景などからもそういう情報を読み取れる可能性が高い気がするからだ。
リア充ブラザーズ、最後の最後にマークへの民事訴訟へハラをくくるときはボート部のヒーローでのちに北京五輪に出場したリア充ぶりを見せ付けて「ナード(オタク野郎)をぶっとばしてやれ!」と気合を入れる。
アメリカのエンターテインメントを見続けた人には、例の「学内序列」(スクールカースト)も絡んでいて、そこから読み解くこともできるだろう。
そういえば親友サベリンを最終的にマークが裏切る?のは、メフィストフェレスのように甘くITビジネス、シリコンバレーの世界に誘惑して行くショーンの影もさることながら、サベリンは苦労しながらハーバード大の「クラブ」にも入ろうとする、旧学内序列との親和性があったことも示唆されているような気がする。
 
なんにせよ、さまざまな形でみる事が出来るという点では、上に述べたドラマの尻切れトンボとか「理系分」が足りない!とかを別にして、確かにいい作品なのだと思いました。

参考。

この映画感想は、けっこう書きながら考えたところが多いので、内容にはそれなりに自己満足したものの、本来ならこれを全体的に再構成し、順番の入れ替えと、できれば枝葉の話を切り捨てるのが望ましい(笑)。
でもそういう欠点を分かりつつ「せっかく書いたんだから」と捨てないで済ませられるのが文字制限のないブログのいいところだ(笑)
 
だが、こんな長文読む暇無いと言う人はすっきりとまとまったプロの文章を(ホットエントリより)。

■インターネットという主人公「ソーシャル・ネットワーク
http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20110122

そしてtogetter
町山智浩さんのソーシャル・ネットワーク解説
http://togetter.com/li/90956
■(2010.10.23)第23回東京国際映画祭で上映された「ソーシャル・ネットワーク」の感想まとめ
http://togetter.com/li/62238
togetterはご存知の通り、関連したものがどんどん下にリンクが張られるからそっちをたどってもみてください。


町山氏の指摘は、あとで自分も関連したことを書きたいと思っているので参考にしよう。

備忘・こんな言葉があるらしい

「中国、インド、フェイスブックとね。
確かに人口的には、それは間違っていない。

追記:この作品の映画評まとめエントリ

これは便利だ。
■映画『ソーシャル・ネットワーク』評いろいろ
http://d.hatena.ne.jp/yosinote/20110124/1295883657