尖閣問題でふたたび、メディアに出始めている佐々淳行。この人が今年1月に、新刊を出していたことを関連の検索で知って、この前読んでみました。
- 作者: 佐々淳行
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/02
- メディア: 単行本
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「勝手な正義感による情報流出は許せん」を突き詰めると…
で、紹介したいところは複数あるけど、今回の事件のタイムリーさにあわせてこれを紹介したい。これは「ウラの対応術」であったと本人も認めるやり方で、読みようによっては実に陰湿かつ危険である、かもしれないわけだが。
【事件概要】
自衛隊から、ある機密情報の書類が野党K党のK議員に渡った。
それは自衛隊の諜報部門が、ある団体を監視対象にしているというものだった(※この団体の監視をしていることがいいか悪いかは議論がわかれよう。ただ、ともあれK党は問題視した)。
K議員は「爆弾質問をする。国会で取り上げる」といきまく。
自衛隊は緊急会議を開いたが結論が出ず、事態は官邸へ。そこから後藤田正晴官房長官と中曽根康弘のトップ会談で「君が適任だ」と佐々は事態収拾を一任され、K議員のもとに向かう・・・
さてここからが問題だ。
佐々はその機密書類が本物であることを確認すると、再度K議員と面会。
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「さっきは平和の使者として白旗を揚げてきましたが、今は防衛庁官房として職権を持ってお尋ねします。私だって見ることを許されない機密文書をどうやって入手したんですか?」
「われわれは警務隊で捜査しなきゃいけません。だれかが貴方に提供したんだから公務員法違反、守秘義務違反です」
「捜査して判明した場合には(K議員の書類を)証拠として任意提出を求めます。任意提出を拒否すれば、捜索差押許可状をもって、事務所と自宅にガサが入りますよ。場合によっては公務員法違反の教唆もしくは事後従犯として任意ですが取調べをさせてもらいます」
K議員「議員の国政調査権をなんだと思っているのか!」
佐々「国政調査権かなんか知りませんが、私が申し上げているのは警務隊は捜査権があり、これは機密文書漏洩です。国家公務員法違反です。おそらく捜査をしていくと…(K党と関係の深い)…が出てくるでしょうね。その人を逮捕します」
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結局、ある妥協点が成立し、国会では別の形での追及になってある意味波風は立たなかったのだが……
ある意味舌をまくのは、佐々淳行の語る議論は一応のつじつまが合っているという点なんだ。形式的に言ってみると「まあその通りだよな」というしかない。
流出した情報そのものの正しさや内容の深刻さと「流出させたことの問題・罪」は別々に存在するんだからね。
その一番の典型は「ぼくはパパを殺すことに決めた」だと思う。あの本の元になった証拠は確かに出所は信頼できるもので、記述もそれなりに正確なのだが、それとは別に(いや、だからこそ?)「流出させた罪」は別に存在してしまう。
だから佐々は今回「それはそもそも機密情報でしたか?」という部分にこだわり、実際にそういう流れになったんだろうな。
実際の話、佐々が上の論法を心から信じているなら、K党との妥協や取引材料に使うのではなく、機密流出をそれ自体で調査すべきなだとも思うが「機密流出を事件化するとその機密自体が表に出る」ときは抑えることも許されるのかもしれない。このへんの理論はちょっと不明だ。
ただ「情報クーデターだ!」「515事件の再来だ!」もしくは佐々自身もそれに含む「国士の憂国の表れだ!」ということで今回の問題を論じると、当然上の話の発端となったK党への情報流出(内部告発)も「クーデター」であったり「憂国」であったりし得る(だから佐々も、そもそもの映像の性質にこだわったのだろう)。
情報クーデター論ははからずも、警察官僚・佐々が取引材料に使った形式論理と似通ってくるというジレンマ。
これは「リーク」が持つあいまいな部分が引き寄せる、本質的なものでもあるのかもしれない。
ちなみに「わが記者会見…」では党名、議員名は実名です(笑)