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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

京大の保守派政治学者・高坂正堯は「うるさい!」と右翼の街宣車を怒鳴り「アカか?」と言われた。

京大つながりで高坂正堯氏のお話をひとつ。
この前、このブログも盆休みをしましたけど、ダテに休んでいたんじゃありません。まだパソコン、ネットのコンテンツは充実しておらず、雑誌が最後の繁栄を謳歌した90年代に、私がせっせと貴重だと思った記事を膨大にコピーした通称「グリフォン・ファイル」(最初は紙版、後半はネットのページ保存もあるのだが)を整理し、以前から皆さんに紹介したいと思っていたドキュメントを発見することができました。


高坂正堯
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E5%9D%82%E6%AD%A3%E5%A0%AF

「近代の超克」を唱えた鳥取県出身の哲学者・高坂正顕の次男として京都市に生まれ…大学では国際法学者の田岡良一や政治学者の猪木正道に師事。なお、猪木は「高坂は僕が教えた中では、ピカイチの天才だった」と絶賛している・・・1963年、ハーバード大学留学から帰国した直後に「現実主義者の平和論」を『中央公論』に寄稿、論壇にデビューする。高坂は同論文において、当時日本外交の進むべき道として論壇の注目を集めていた坂本義和らの「非武装中立論」の道義的な力と意義を認めつつも、その実現可能性の困難さを指摘・・・(略)・・・「宰相吉田茂」は、吉田の築き上げた日米基調・経済重視の戦後外交路線をその内外政に即して積極的に高く評価し、当時否定的な評価が一般的だった吉田への評価を一変させ、現在に至る吉田茂への肯定的評価を定着・・・29歳にして高坂は現実主義を代表するオピニオン・リーダー……佐藤栄作大平正芳をはじめとする自民党政権のブレーンとしても長く活動…中曽根康弘首相の私的諮問機関「平和問題研究会」でも座長を務め、防衛費1%枠見直しの提言…コメンテイターとしてテレビ朝日系の「サンデープロジェクト」にも出演。・・・田原総一朗からは、「余人を持って代え難い方」と高い評価を受けた。軽妙な京都弁での語り口調が印象的だった。

最後のテレビでの活躍はご存知の方も多いだろうし、その外交理論は現実の政治家で言えば直接の弟子でもある前原誠司にも、またはてなの有名ブログ「リアリズムと防衛を学ぶ」のid:zyesuta氏にも影響を与えている、らしい。
ひとくちに保守と言ってもいろんな流れや濃淡があるけれども、高坂氏の言論や人物評価に対しては、攻撃にしろ賞賛にしろ一貫して「保守派の」という冠がつけられていた。
ところがだ。
 
同氏が亡くなった1996年に、「サンデープロジェクト」で何度も共演していた大谷昭宏氏が追悼文を書いている。これが大谷氏の文章の中でも屈指の明文なのだ。大谷氏の議論の暴走や破綻はネット界では皆様ご存知だろうけど(笑)、基本的には「黒田軍団」育ちの情の人であり、情で理論が崩壊するタイプ。最初から情一本で書ける文章にはいいものが多い。
大谷氏はナベツネ路線との確執もあった黒田軍団的に、(治安問題などを除く)政治の大状況を論じるときは、高坂とはまるで違う左派・リベラルを自認していたことも念頭に置いて読んで欲しい。

高坂正堯先生ともっともっと話がしたかった


高坂先生とは…サンデープロジェクトでご一緒させていただいた。と言っても私は震災や住専問題と言った特集がメインだから毎回の出演ではない。それに高坂先生は、学会や、教え子の結婚式と言うご自分の用事を大事にされ、テレビを優先させることは決してなかったので・・・それでも30,40回はスタジオの同じテーブルつかせていただいた。・・・
全共闘の真ん中に私は、防衛費の問題にしても、国際安全保障の件についても先生の「国家間の暴力は人類が避けて通れない課題だ」とする持論にはいささか反発はあった。しかし現実は目の前にある。ロマンを求める余り、現実を直視することを避けてはならない。それは社会の進むべき方向を誤らせてしまう。先生の姿勢はここにあったと思う。…私が死刑制度は存続せざるを得ない、という立場を取り続けているのも、先生のこんな姿勢に教えられたことが大きかったような気がする。
(略)
死刑制度といえば、番組で私がこの問題を取り上げたことがあった。わが子を雪の日に誘拐されて殺害されたお母さんが…遺品のかわいい長靴を胸の前でかきむしるようにしてないているビデオがスタジオに流れた。ふと見ると高坂先生が必死に声を押さえながら、見る間に涙をあふれさせている・・・(略)
<ここで、サンデープロジェクトでチームを作った草野球のエピソードが入るが省略>
熱狂的な阪神ファンであったことはあまりにも有名だが、これとて単なるファンではない。野球の話になると、番組スタートのギリギリまでソファーに座って熱く話される。それもきょう現在までの阪神の総得点が、何点で、総失点がこれだけと、その時点の数字がスラスラと出てくる。「こんなに阪神が点がとれんのじゃ、どないもならん。このまま行ったらシーズン終了まででも総得点はこのぐらいやろ。これじゃアカンわな」と、チームにロマンを求めながら、現状をきちんと分析しておられた。

さて、ようやく本題に。

先生の骨っぽさを知った思いがした時もある。番組が終わって、全日空ホテルのラウンジで食事をする・・・その席での先生の話がおもしろい。
京都大学というと、もちろん左翼系の学生も多い。天皇制に異論を唱える教授陣だっている。するとそんな動きに対して、右翼がやってくる。百万遍(※地名?)のあたりに街宣車を止めて、大音声でガナりたてる。ゼミにも講義にもならないのに学生や教授たちは知らん顔をしている。だが、先生は我慢がならない。
「ボク、飛び出して行って街宣車の下で、やかましゅてん講義にならん、出て行け言うて怒鳴ったったんや。そうしたら車の上で仁王立ちしていた男が降りてきて言うんや・・・(略)で、その男なんて言うたと思う?」と言ってあたりを見回す。
「いきなりボクに『お前、アカか』って言うんや。生まれてこの方、ボク、アカって言われたんは初めてやなあ、クフフフ」
もう二度とお目にかかれないと思うと、寂しくて、残念でならない。


(1996年の雑誌「ダ・カーポ」連載コラムより)

この右翼士の、政治思想地図を塗り替える大胆な高坂評価は、残念ながらその後の論壇では少数意見に留まったようである。

ん、全文読みたい?

のここ。
http://f.st-hatena.com/images/fotolife/g/gryphon/20100819/20100819023749_original.jpg

高坂氏の本で一番個人的にすきなのは

世界史の中から考える (新潮選書)

世界史の中から考える (新潮選書)