今、連載して3、4回目ぐらいです。週刊モーニング。
にぎわいも今は昔、あちこちでシャッターが下りる鶴亀商店街。
元ヤ●ザと噂される男が喫茶店を開いた。過去なんてどうでもいいじゃないか。これから新しい道を極めるんだから。顔が凶悪だっていいじゃないか。“和(なごみ)”の心を持って接すれば。極道珈琲店、父と娘とネコ一匹で営業中。
こういう話・・・元ヤクザとか現役ヤクザが、それとはかけ離れた固い仕事や軟派な仕事、あるいは趣味を何かの拍子にやりはじめ、しかし所々で極道の流儀が出てきて大騒動・・・というのは、もう鉄板中の鉄板でしてね。あまりに鉄板すぎて、一回りしてみんなやらなくなったところで、正面から堂々とそれを問う、というのは結構いいのではないでしょうか。(※ちなみにネタバレだが、なごみさんは、この経歴に関してはミニどんでん返しがあった)
ただこの作者さん、
「拝み屋横丁顛末記」という、「各種の宗派、形式による霊能力者、序霊師が集まって住んでいる横丁がある」というなかなかの魅力的なシチュエーションをこしらえた作品があって、連載誌は知らないがもう10巻ぐらい出ている。私は魅力的な設定をこしらえればそれを高く評価するたちなので、ブックオフで100円だったこともあってまとめて買ったのだが(作者に失礼だってそれ!)・・・・・・うーんつまらなくはないし話がまとまっているのだが、ホントにそれだけ、という感じの作品だったですわ。いや、どれも水準に達しているんだが、いわゆる”決め球”のない人、という・・・。
拝み屋横丁顛末記 (1) (ZERO-SUM COMICS)
- 作者:宮本 福助
- 発売日: 2003/07/25
- メディア: コミック
ただ、いつか正式に紹介したい、作者がモーニングに短期連載した
- 作者:宮本 福助
- 発売日: 2008/07/25
- メディア: コミック
この路線で「なごみさん」をやっていくならそれは面白いかもしれない。
ただし「極道喫茶店」には先行作品がある
漫画紹介の度を超えてコマを張っているというお叱りは甘受するが、これでもこの回のギャグのごく一部に過ぎない。
しかし、あらためて見るとこの時代の「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の面白さはなんともかんともすごすぎる。「極道が○○をしたら?」という話は、この回のあと「御所ケ原組長」という得がたいキャラクターに固定化され、ますますシュール度を深めていくのだが・・・そのプロトタイプとしてのこの「極道喫茶店」の話のすごさ。さっき「おなじみ過ぎる設定」といいましたが、それでもこれだけ面白くできるのは、なといってもせりふのキレのよさとテンポ。
若頭?のような男が、極道ギャグである「問題解決方法として、すぐに暴力に訴えようとする」を表現するときの、この短絡的な思考法と結論。
「もはや銃撃戦しかありませんぜ!」
「先手必勝 やられる前にやるしかない!」
どちらも、このタイミングで、このせりふ以外ありえない、という最高のチョイスだし、チンピラが早合点した
「組織の秘密を知られた以上は・・・・・・プリン!?」
というのも、「プリン!?」の一言、これだけで大爆笑を誘う。
あと極道がこういう商売の中で小市民的なセコさを見せるところもだ。
「だいたい組の中で商売もかねて茶店やるという セコい考えだからこんな・・・」「だまれーっ!」
「前の牛丼屋でこりてないのか?」「重要な資金源になるんだぞ こりるかよ」
というのは、読者の意表を突きまくって、いま写しているだけでホントに思い出し笑いしてしまう。
そして
最後のコマの部長の「おい現場を見つけたぞ」というのは「(両津たちが喫茶店でサボっている)現場を見つけたぞ」という意味なのだが、そこから一気に銃撃戦のオチに持っていく手際のよさよ。
http://www.maxaydar.net/kame/chara/si.html
などによると、このエピソードは25巻収録らしい。
- 作者:秋本 治
- 発売日: 1983/03/10
- メディア: コミック
「なごみさん」に、これに匹敵するような「極道の喫茶店」を描けといっても荷が重過ぎる(というか、秋本治本人だってこの時代のテンションはもはや復活させられないし、この時期の「こち亀」のノリを後継できた漫画家なんて皆無だ。)
自分も「なごみさん」にエールを送るつもりだったのか、それにかこつけてこの黄金期の「こち亀」を絶賛したかったのか、当初の目的が見出せなくなった(笑)のだが、とりあえず「なごみさん」もがんばってほしい。転がし方によっては絶対に面白くなる、そういう設定ではあるのだから。
「極道が○○をしたら」ものといえば小林信彦「唐獅子株式会社」
- 作者:信彦, 小林
- 発売日: 1981/03/27
- メディア: 文庫
- 作者:小林 信彦
- メディア: 文庫
これ、まだ絶版じゃないよな?これが絶版になったら日本はおかしい。
大抗争で逮捕され、何十年かぶりに出所してきた若頭の視点で描かれるのだが、そのボスである関西の大親分は、じつはめっちゃミーハーで流行ものが大好き、何かというとすぐに自分でもやりたくなる人だった。
その大親分のお気に入りである若頭は、出所直後のカルチャーギャップも埋められないまま、テレビ局経営(というか番組制作)、音楽製作、カリフォルニア文化、はては源氏物語やスター・ウォーズ!まで、親分の趣味に付き合わされててんやわんや、見よう見真似でその流行を追っていく・・・という話であります。
カリフォルニア・西海岸文化を真似する回なんかは正直、歴史的な意味しかないっちゃないんだけど、スターウォーズは元ネタの寿命が長かったおかげで今でも楽しめる。
「もし極道が○○をしたら?」の元祖的作品という人もいるんだけど、事実はどうだろう。よくわからない。書かれたのは「スターウォーズ」第1作を扱っているように70年代の末だ。
また、これって「ミーハーな、なんでもやりたがりいる。その人にはそれを無理やりやるような権力、財力、もしくは超能力と、仲間を無理やり巻き込む強引さがある」という設定はすごく話を動かしやすいので、その系譜を別に考えることができる。
マイルドな学園ものにするなら、本質的には「ハルヒ」や「鳥坂部長」だって組長とあんまり変わらないかもしれないし。
ただ、「なんでもやりたがり、真似っこ大好きなので大騒動」という特質を宇宙人に与えて、もっと規模の大きいユーモアSFにしたものがあったね。
- 作者:アンダースン,ポール,ディクスン,ゴードン・R.
- 発売日: 2006/08/01
- メディア: 文庫
なんとも愉快で、かわいげのあって楽しめるSFだ。今でも出版されているなら、ぜひ入手して呼んでほしい。
その他の作品
このあと・・・えーと、
とか、そういうのが出てきたのかな?あと、秋本治が「元ヤクザの地方公務員」を描く- 作者:秋本 治
- メディア: コミック
「たくさんある」とか「鉄板だ」といいつつ、わたしはよく知らなかった。
あ、でも私が見てないけど人気があった
- 作者:藤沢 とおる
- 発売日: 1997/05/14
- メディア: コミック
「ヤクザが一時的にカタギのふり」というのもあった
あ、あとヤクザが結婚式とかお見合いとかで、一時的にかたぎのふりをするというギャグストーリーも面白いのが多いんだよな。かならず何か、実際の稼業を無理のある言いかえをするというギャグがある。
- 作者:中島 らも
- メディア: 文庫
1巻に収録されている、おそらく「披露宴」という落語形式の短編ストーリーはまさにその最高峰みたいなもんで、ヤクザの幹部の披露宴(結婚相手はカタギで、幹部は自分の正体を言い出せないまま結婚した)で、組長あらため「社長」がその幹部の経歴について、必死で言い換えのスピーチをする。
ああ、これは私が提唱してたジャンル定義のひとつ「取りつくろいもの」でもあるんだ。
ちなみにこのストーリーのオチ部分は、
格闘技関係者なら半分は笑えて、
半分は該当者を思い出してすっごくシャレにならないので
論評を控えるように。
忘れてた忘れてた。
コメント欄で指摘された
yukizoo 『浅田次郎の名作プリズンホテルもお忘れなく!!』
- 作者:浅田 次郎
- 発売日: 2001/06/20
- メディア: 文庫
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090320#p7
で紹介していたのに。
一、情報収集には万全の配慮を致しておりますが、不慮のガサイレ、突然のカチコミの際には、冷静に当館係員の指示に従ってください。
一、客室のドアは鉄板、窓には防弾ガラスを使用しておりますので、安心してお休みください。
一、貴重品はフロントにて、全責任を持ってお預かりいたします。
一、破門・絶縁者・代紋違い、その他不審な人物を見かけた場合は、早まらずにフロントまでご連絡ください。
一、館内ロビー・廊下での仁義の交換はご遠慮ください。
これも忘れるとは。
この「ヤクザが○○」の話は、先行してここで書いていたのに。http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20050528#p3