今月、最終号を出して40年の歴史に終止符を打った「諸君!」
連載コラムのいくつかも、これで無くなるのは残念だが、そのうちのひとつが佐々木俊尚の「ネット論壇時評」であります。
で、この最終回の題名は「大新聞もテレビもはや生き残る必要はなくなった」という刺激的なものだ。
このテーマ、ブログ上ではすでにおなじみの議論で、新聞やテレビにネットが取って代わることが出来るか?というもの。
だから平凡な論旨なら紹介することもないのだが、ひとつ新機軸があったのでそれをお伝えしておこうと思う。
それは、ホリエモン騒動や楽天のTBS買収騒動の際に出てきた話でもある。該当部分を佐々木氏本人が簡潔にまとめた箇所があるので引用しよう。
私はこの数年、メディア業界人から「佐々木さん、新聞はこれからどうなるんでしょうか?」と聞かれるたびにこう答えてきた。
「新聞社のビジネスを成り立たせるのは非常に困難になるとは思いますが、決して消滅はしないと思いますよ。なぜなら世論を形成し、権力を監視する装置として新聞は社会にとっては必要不可欠だから」
しかし…(略)…私の考えは徐々に変わりつつある。
新聞が担ってきた役割は以下の三点である。
1・一時情報としてのニュースを取材し、人々に伝える役割
2・それらのニュースがどのような意味を持ち、社会にどのような影響を与えるのかを論考評価する役割
3・権力を監視する調査報道機能このうち1の一時情報報道については、通信社で何ら問題なくカバーできる。
2に関しては本連載でも書き続けてきたように、ブログなどのインターネット論壇の論考能力はいまや新聞やテレビを凌駕している。
さて、「3」。新聞やテレビの、ある程度は組織の力を使って、権力の問題をあばく「調査報道機能」に関しては…佐々木氏は
http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2009/01/post-9c97.html
を引用している。
集めた情報を加工・分析し、新たな視点を提示する調査報道系のジャーナリズムだ。こちらの未来は大問題である。
調査報道は地味で手間が掛かるし、すぐに読者が関心を持ってくれるとは限らない。事前の投資が大きく、投資の回収期間が長期にわたる。しかも、ネット社会の進展の中で、「どこから投資を回収するのか」という問題も抱えている。例えば、どこかの大企業の問題点を指摘するならば、そのメディアは広告の大幅減収を覚悟しなくてはならない。
(略)
健全なジャーナリズムには、何物にも依存しない健全な財政基盤が必要だ。逆に言えば、全ての人に広く薄く依存することが望ましい。それは同時に、メディアが一部の広告主や権力ではなしに、全ての人々によって実効的に監視されるということでもある。私はそろそろ、「情報のエンドユーザーが無形の情報に価値を認めて対価を支払う」ことを一般化する時期に来つつあるのではないかという気がしている。
もしも、「インターネットの時代にも健全で深いジャーナリズムが必要だ」と考えるなら、「ポケットの中の小銭をきちんと無形の情報の対価として投げることが習慣になるべきではないのかと思っているのである。(略)
ネットでは「情報はタダ」という観念が浸透しているので、過去有料化に挑んだ媒体のかなりの部分が失敗している。
また、エンドユーザーが支払う対価は、NHKの受信料のように法的に強制されるべきものではない。あくまで「面白いから」「意味があるから」「意気を感じるから」「応援したいから」支払うべきものだ。
佐々木氏は、アメリカで「調査報道の圏域を新聞社以外のビジネスで担う」という試みの例としてこんな例を挙げる。
基本的には、調査報道のコストをどこからか調達し、維持しようという考え方だ。
たとえば「スポットUS」というビジネスがある。調査報道を市民のサポートで行うというもので、昨年11月に会社が設立された。環境問題や政治問題、社会問題などさまざまなトピックをフリーのジャーナリストが提案し、ユーザーから寄付を募る。その寄付が一定額まで集まったところで取材を開始し、記事にして読者に配信するという。
このスポットUS以外には、富裕層や大企業から寄付を募り、その寄付によって『調査報道NPO』のようなものを維持しようという動きもあちこちで生まれてきている。
ううん、タダから「寄付」に以降するというのは簡単なようで難しいし、特にアメリカより日本は寄付行為についての心理的、手続き的なハードルが高いこともあり、さらに簡単ではないだろう。
ただ、そもそもフリーのノンフィクション作家が、あるテーマを基に調査を開始するときの始動で、ある程度の資金に窮するということはままあるらしい。出版社や雑誌社がその企画に賛同し、(一部の)資金を出してくれることもあるが、まったく徒手空拳で、手持ちの資金を食いつぶして取材、その後企画をあちこちに持ち込みました・・・というパターンもままある。
それに取材費もピンキリで、「数万円程度が集まれば、それでとりあえずは御の字」で、そこで結果を出して、さらに寄付を募るというパターンもあるでしょう。
地方在住のノンフィクション作家が、あるいはノンフィクション作家志望者の大学院生などの時間ある人が、国会図書館や大宅壮一文庫で数日調べものをしたい、というのだって十分な調査報道なのだから。この場合、交通費やカプセルホテルの数日の滞在費が得られる、というものだってその人にとってはありがたかろう、たぶん。
週刊新潮に「掲示板」というのがあって、けっこうノンフィクション作家の「今・・・・を調べていますが、XXXを教えてください」みたいな告知が載っている。それを読むと時々、「ほう、このテーマなら俺がカネを出して(1000円ぐらい)完成させたい」みたいなのもある。
格闘技界の調査報道メディアとして高崎計三氏の「kamipro事件簿」(携帯サイト連載)があるが、あれはどれぐらいの調査費が一回のテーマごとに得られているのだろうか。
まあ、「SpotUS」を検索したがちょっと見つからなかったので、どんな具合に進展しているのかは分からない。
仕方ないので、フィクションとして未来の「スポットジャパン」を考えてみよう
【スポットジャパン】
・いま、格闘技団体「PRIDE」の誕生から周辺までを調べています。その最終盤に起きたエド・フィッシュマンとDSEの裁判記録を見るため渡米します。ご寄付をお願いします。裁判記録は本の出版後、公開情報としてネットに公開します
・当方、ダイバーカメラマンです。じんべえさめの撮影に沖縄に向かいます。撮影した写真から100枚をネット上のフリー画像にします。
・明治時代、嘉納治五郎について書かれた新聞記事をしらみつぶしにしてデータベースを作りたいと思います。国会図書館に一週間通いたいのです。滞在費3万円だけご援助ください
・「XXXX事件」の公判、最初から最後まで傍聴してレポートを載せます。たぶん新聞には載りません。
うちからの交通費が一回2000円です。
自分でも負担しますが、ずっと続くとやっぱり大変だし、その日はバイトを休まなければいけません。寄付をお願いします。
当方、速記の公式資格を持っており、正確に法廷のやりとりを再現できます。
…なんか出会い系サイトか何かのようになっている気が(笑)。いやどんなんかよく知らんが。
当然、詐欺まがい、オカルト的陰謀論のPRみたいなアレも跋扈するはずで、中間のこのサイト管理者が、募集者の身分や経歴、実績を審査し、本当に取材しているかを監視するような仲介機能も必要になる、かもしれない。
ちょっとまあ「もし、上のようなサイトを(日本で)運営するなら?」をリアルに考えていくと、可能性や限界、改良点もいろいろ見えてくるはずだ。
<ここの読者にプロのノンフィクション作家やノンフィクション作家志望者がいたら、その立場からの意見を聞かせてください>
上の空想話を支える、ある事実。
佐々木俊尚氏は「基金による維持という可能性は、意外に成功するかもしれない」とする。
なぜか?ここからがちょっと苦笑する指摘。
調査報道にはそれほど多くの人数や経費は必要でないからだ。たとえば日本の全国紙の場合、1500人から3000人ぐらいの記者を抱えている。だが彼らの背反は中央官庁や地方自治体、企業などの記者クラブに常駐し、その場で配布されるプレスリリースをただ書き写しているだけの存在だ。自分の才覚で独自に動き、調査報道に邁進している優秀な記者はどの新聞でもせいぜい数十名に過ぎないのである。
ははは。たしかに「大統領の陰謀」をはじめ、スクープ調査報道はその後、当事者がたいてい自慢話を書くものだが(笑)、情報漏れを防ぐために少人数でひみつに進めるパターンは多かった。「すごく規模が大きかった」と自認するのは立花隆の「田中金脈」報道だが、あのスタッフだって寄付や基金でまかなえないような規模ではなかったと思う。当時より一般的な公開情報の収集コストは下がっているしね。
もちろん、1割が働くが9割は働かないアリの群れをその1対9に分離すると、その二つのグループの中で再び働く1割と働かない9割に分かれた・・・という話があるように、スター記者は組織の中にいるからこそ真価を発揮できた、ということもあるかもしれない。
ただ、情報は看板にもつくが個人の名前にも、やっぱり多少はついている。
某新聞社の「勝田本一」記者や某社の「義森古一」記者がネットメディアに移籍し、看板記者として取材を開始したら・・・・鳥越俊太郎が編集長になったオーマイニュースのようになる(笑)
ああっ、縁起が悪い上に書いた文章の説得力を失わせている(笑)
それでも、さらに発展させて、「ネット上の独自メディアが、基本的な資金を確保する方法」「その影響力の確保」について、もう少し展開したいと思います。別エントリにするかここを後で拡大するかは未定。
「ハンフィントン・ポスト」
「THE JOURNAL」
「魚住昭サイト」
「2004年アメリカ大統領選(ブッシュvsケリー)」
などを中心に。
【付記】この続編が以下のエントリになります
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