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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「相手の戦力分析は、こちらの希望に合わせて変更!」ゆかいな日露戦争秘話

腹を抱えて笑いながら、背筋に冷たいものが走る。


http://d.hatena.ne.jp/maroon_lance/20090314

……有名な話だからご存知の方も多いと思うが、一応『評伝田中義一』より、次のエピソードを紹介しておく。文中の"私"は参謀本部の楠山大尉(後の浜面中将)である。

……近いうちに御前会議があって、廟議を決せらるるという少し前であったと思う。当時私は大尉で、シベリヤ鉄道の輸送力を調査していた。

ある日、田中少佐(※田中義一・のちの首相)は私をよんで、"近いうちに御前会議があるから、その前に材料を準備せねばならぬので、ロシアの鉄道輸送を調査せよ"と命ぜられた。そこで私はあらゆる材料を収集調査して、ロシアの輸送力は、一日に八列車、即ち三時間毎に一列車を輸送し得るという結論に達した。

(略)
私がこの調査を提出すると、田中少佐は、

「これはいかぬ。これではいつまで経過してもわが方は劣勢ということになる。これはなんとかならぬか

「どうも敵の輸送力は、私共にはなんとも致し方がない…(略)…紙の上で直すことは容易であるが、敵の輸送力は直すことは出来ませぬ

「よく考えてみろ、伊藤さんや山県さんを始め、大山さんとても、この計算では、開戦論に絶対に同意はしないよ。それだから、なんとしても、これを直さねばならぬ

「直すことは造作もないことですが、これは御前会議に提出の材料になるのではないですか…(略)…陛下に対し奉り虚偽を申し上げるような感じがする。私は今迄誠実を守るべき教育を受けてきた。嘘を言うことの教育は受けていない。いわんや、陛下に対し奉っては、なおさらのことであります」

「陛下をおだましすることになると言われては、一言もない。併し、ものは考えようではないか。例えば、尊貴の方が御病気の折に、もはや駄目と思っても、医者は駄目といわぬものだ。近いうちに直ると申し上げる。それはたとえ一時の気やすめでも、いうのがいいのだ。それによって気力が出れば、また病気が直ることもある。君も知っているだろう、あの大石良雄の主君ににがい薬を飲ませたときのことを・・・・。それでも不忠だと思うか」

(略)
私は、早々宅に帰り…(略)……神意によって決する外はないということであった。かく決心して木枯らし吹きすさぶ寒い夜であったが、井戸端で水垢離をとり、そして皇大神宮に、精神をこめて祈願した。かくしてマッチ箱二個を取り出し、一方にはマッチを六本入れ、他の一方には八本入れて、電灯を消し、手拭で目かくしをして、マッチ箱を投げ、更に数回キリキリ舞をして最初に模索したマッチ箱のマッチが六本ならば六列車、八本ならば八列車と決定することにし…(略)…開けて見ると、運よく六本であったので、押し戴いて、心から神様に感謝し、六列車と決心した

(略)
いよいよ開戦になったが、遼陽会戦の前後には、停車場間に待避線を設けるなど、ひたすら、輸送力の増加に努めた結果、支線は八列車、ないし十列車を輸送したのである。そこで参謀本部の計画が杜撰だといって非難を受けたけれども、そのとき私はすでに参謀本部にいないで、野戦軍の師団参謀に転じて居たので、攻撃の矢面には立たなくてすんだのであるが・・・・

(略)

……戦後私が、駐在武官としてロシアに赴いたとき、本野一郎公使は、

参謀本部の調査は、ずいぶん杜撰なものだね。一日に六列車という計算は、どうしてできたのだ。公使館のものでさえ、もっと正確な計算をしたのである(略)」

と、舌鋒鋭く冷評せられた。

「六列車という計算はいかにも杜撰であったかも知れませぬ。しかし(略)人間には意思がある。開戦論者が計算をすれば、六列車である…(略)…いちがいに杜撰と非難されることもできますまい」

「なるほど、六列車というのは、開戦論者の算盤であったのか。それでわかった。田中の仕事じゃなァ」といって、本野公使も談笑の間に、当時の事情を諒解された


というわけでハッピイ・エンド。
歴史は一箱のマッチ箱と、その中のマッチ棒六本が動かした………
いいのか。

このエピソードは司馬遼太郎原作には入っていないと思うが、ぜひNHK大河ドラマ坂の上の雲」中に入れてほしいものだ。
三谷幸喜が舞台化したら面白いだろうな。

ごくわずかな例外だが、歴史は一番おろかで危険な道をたどったものたちに、結果的な大成功を与えることもある。