(※最初の文章は大急ぎで書いたため粗く、今は誤字訂正も含め修正しました。)
「ホーリーランド」の森恒二が放つ新連載は、ここでも一度紹介した「自殺島」。
この作品世界では、自殺を何度も繰り返した人間は「権利と義務を自ら放棄した」と見なされ、南?の島にと放り出されてしまう。
その島では
・日本国の法律はすべて適用されない
・中では何をしても自由だが、この島の外に出ようとすると排除される
ということらしい。
あたかもマウントポジションのように、ここから展開できる「技」はたくさんあります。
前も書いたけど、さいとうたかを「サバイバル」のように、生き延びるためのサバイバル・スキルにまつわる技術解説、薀蓄という、ホーリーランドの技術解説によって「梶原一騎の部分的後継者」との評価(by俺)を確立した森氏ならではの描き方もありえる(それに中高校生、こういう知識はなぜか大好きなもんだ。本当にキャンプや登山をするとかとは別に)。
そして、あとひとつが「法律と、それを担保する公の暴力(警察など)が無い状況での人間集団の対立や無秩序…または友情や正義」を描くという展開です。というか「サバイバル」もそういう部分の比重のほうがむしろ多かったかもしれないですね。
この場合をさらに二つに分け
■全面的災害での政府崩壊・集団の漂流などによる無法・無秩序状態の形成
■部分的災害によって特定エリアが封鎖・交通遮断されるか、もしくは特殊な政策による無法・無秩序状態の形成
と分類していいと思います。おお、アドリブで思いついた分類だが、いけるじゃん。
んで、元祖…なのかな?とぼしい知識でざっくりと書いていきます。
まず最初にロビンソン・クルーソーをベースにジュール・ヴェルヌの「十五少年漂流記」が生まれ、好評を世界的に博したと。
ここでもサバイバル技術の薀蓄はあったが、孤島に一人のロビンソンではやりたくてもやれない(笑)集団生活の中の葛藤や派閥・政治対立が描かれていた。
- 作者:ジュール・ヴェルヌ
- 発売日: 1951/11/20
- メディア: 文庫
- 作者:椎名 誠
- 発売日: 2008/05/01
- メディア: 単行本
だが、それは非常にスマートかつ紳士的な範囲で、途中で和解したりもあったので「こんなうまくいかねーべ」というところから、少年たちの殺し合いやカルト宗教の誕生までを描くゴールディング「蝿の王」が書かれた。読んだのは古い記憶なんで曖昧だが、たしか最後のシーンで救出した大人たちが「あの、十五少年漂流記みたいにうまくやれなかったのかい?」と尋ねるという(笑)オマージュシーンがあったような。
【追記】id:mit33
えーと、『十五少年漂流記』は内容を簡単にして翻訳したものなので、原典よりも結構色々な部分が削られたり、子供向けにされたりしてます。『二年間の休暇』という題(原題もこの名前)で出ているのが原典に近い翻訳です。そちらでは結構どろどろしてたりしてます。
- 作者:ウィリアム・ゴールディング
- 発売日: 1975/03/30
- メディア: 文庫
■さいとうたかを「サバイバル」、
■梅図かずお「漂流教室」
■「飛ぶ教室」(いまは名前も忘れた人が描いた、ジャンプで核戦争後の少年たちを描く作品。同名の小説とは別物)、
■望月峯太郎「ドラゴンヘッド」・・・なんてのができたんだろう、たぶん。
■そういえば昔少年サンデーで、こういう世界(日本が内乱発生?)を旅する「望郷の旅人(?)」とかいう作品なかったっけ、80年代後半に?そういう名前で検索した限りでは発見できないし、作者も覚えて無いけど。
【追記】コメント欄より。
わむ 『こたぶん「望郷戦士」だと思います。作者は「あの」北崎拓氏です。つーか北崎さんは、伝説の昼メロ高校生恋愛漫画「たとえばこんなラブソング」をサンデーでやる前はけっこういろんなジャンルに手を出されていたような。』(
そして「部分的な無秩序エリア」というアイデア。
永井豪「バイオレンスジャック」というのは信じがたい話だが、最初は少年マガジン連載だったそうな。
そうすると、「大地震」だけに留まらず、「その地震をきっかけに関東の一部が日本列島から分断され、秩序の回復が困難と判断した政府がそのエリアを遮断、国家公認の無法地帯となる」…という、実に荒唐無稽かつ魅惑的なセンス・オブ・ワンダーが展開されたこの作品が、先行作が仮にあっても、広く一般大衆に提示されたアイデアとしては初ということになるんでしょうな。
- 作者:永井 豪
- メディア: コミック
実は私が小学生のころ、平松伸二という二流作家が自身の作品「ブラックエンジェルス」に、同様に地震をきっかけにした無秩序エリアを政府が作るという「関東破滅地帯」というアイデアを臆面もなく出していた。
なにしろ商売相手はガキだし、当時は2ちゃんねるも無い(笑)。
「おお、凄いSF的な設定だ!センスオブワンダーにあふれてるなぁ」と感心した(笑)。
今、平松氏にインタビューしてそのへんどう思っているか聞いてみたいわ。どす恋 どす恋。
…ところが、書名を覚えて無いが(このエントリ、こればっか)、何かのSFガイドブックにこの「人工的無法地帯もの(という名称じゃなかったが、まあそういうたぐい)」はひとつのジャンルとして紹介されていたんだ。
そしてたぶん、ロバート・シェクリイがその名手だったと書いてあった…ような気がする。
星新一
星新一の作品に関して。
最初の最初に森の「自殺島」を読んだ時、刑罰という意味があったせいだろうか、星の「処刑」(「ようこそ地球さん」収録)という有名な短編を思い出した。水の無い火星?に、爆発装置・兼水供給機を持たされ放り出されるという話。
…だが、よく考えるとこれって「自殺島」のテーマとは全くの正反対、対照的な作品なのだよ。最後は仏教的ともいえるぐらい、達観した哲学論だし。
むしろ似た設定なら、もっと短いSSに「電気に感謝する記念日はいっせいに停電となり、電気のありがたさを知るような社会。同じように「法律感謝日」は全国いっせいに無法地帯、すべての犯罪がお咎め無しになり、皆が法律のありがたみを実感する…」という話がありました。自殺島はそっちにエッセンスは近いのかもしれない。
あとは駆け足。「無法の恐怖vs独裁の恐怖」
無秩序・無法状態の中では、まさにホッブズのいう「万人の万人に対する闘争」が始まっていき、そして醜い欲望も噴出するわけで、このへんを織り込まない作品はやっぱりおとぎ話・タテマエじみてくることは否めない。
だからといって「自殺島」が、はや三話めにしてそういう方向性にいくとは思わなかったが(笑)
それを防ぐのはやっぱり一種の「秩序」であり「組織」。あるいは「政治」と「法」…。
実際のところ、これらは火や水、刃物と同様に「サバイバルのための必需品」なのだ。
ところが、この時に民主主義が必然とはならない(笑)。
いやむしろこういう場合は不要になるかもしれない。
ああそうだ、これを本当に短いページで端的にまとめたのが藤子・F・不二雄の「宇宙船製造法」だ。
- 作者:藤子・F・不二雄
- メディア: 単行本
宇宙船が大破して不時着し、サバイバル生活を始めた少年少女たち。
最初は自暴自棄もあったのか、腕力の強い少年が「俺は王様だ」と名乗り、無計画に貯蔵食料を消費するなど暴君的に振る舞う。
だが、それじゃいけないと憂いた良識派が、責任感の強いリーダーを中心に決起し、集団の力で暴君をやっつけ、その後は秩序を回復する。
ところがそのリーダーは、まさに責任感の強さゆえ−−自分の利益のためではない−−独裁者となっていく。
サボって小さな失火を起こした仲間は、平然と縛りつけ、鞭打ち刑をほどこしたりするのだ。
そして最後は、「多分にバクチ的だけど、ここを脱出できるかもしれない!」という手段が見つかったとき「100%の安全を保証できない冒険を、みんなの命を預かるリーダーとして認めるわけにはいかない!!」と、銃を手に立ちふさがるのだ。責任感ゆえに。
おなじみ、こちらのサイトでは
koikesan.hatenablog.com
では藤子不二雄A先生の「少年時代」も含めて、そういう系譜の一つの作品と位置づけている。
藤子先生のあの絵柄で、過度の陰惨さから免れているので、このジャンルに入る入門編としても最適かもしれない。
伝染病による封鎖された集団の中で、このままだと伝染病を封じるために政府が自分たちを殺しにかかる!!という危機感から、外に打って出るための組織が作られ、リーダーが独裁者になるのが「チャイルド・プラネット」だった。
収容所の中の秩序と法
最後にひとつ、実際の捕虜体験をした山本七平の話を。
彼はまさに敗戦後、フィリピンに作られた日本兵の捕虜収容所に入っていたのだが、本当にバイオレンスな暴力支配が続きうんざりしていた(彼自身は、英語力とある芸術的才能のため米軍から重宝されて、そこからちょっと離れた自由な立場になれたという)。
そして帰国後、「他の国の捕虜収容所はどうだったのだろうか?あれは日本人独特の光景なのだろうか?」という疑問解消のために各国、主にヨーロッパの難民・捕虜キャンプの文献を調べる。
その結論として
「西洋人と日本人をくらべて、日本人の倫理や正義感が劣っているわけではない。
ただ、西洋の社会は、家が無いときは家を作ってその中で寝るように、無秩序状態のときは人工的な、法のもとの秩序を作り、その下で暮らすという思考様式を習慣的に身につけている。日本人はそれなしに、自然状態で『トマリ木の秩序(暴力などの力関係による序列)』ができるのに任せるから、ああいう陰惨なミニ社会ができてしまうのだ」
と思い至ったという。
- 作者:山本 七平
- 発売日: 1987/08/08
- メディア: 文庫
それが正解かどうかは分からないが、妙に印象に残っている。
「家を作ってそこで寝るように、法と秩序をつくってその中で暮らす」……自殺島も、そんな話にひょっとしたらなっていくかもしれない。
【追記】その他、思い出した作品
■地震シミュレーション
- 作者:古屋 兎丸
- 発売日: 2006/09/09
- メディア: コミック
漂流教室系の「漂流ネットカフェ」が漫画アクションで連載中 http://webaction.jp/title/105.php
- 作者:押見 修造
- 発売日: 2009/02/28
- メディア: コミック
■「北斗の拳」は…やっぱ別物だよなあ。
■宇宙船の中で少年少女が権力闘争するってアニメーションも、90年代にあったらしい。
【補足】コメント欄より
カラテオドリ 2008/12/02 07:50 無限のリヴァイアスですね。EMOTION the Best 無限のリヴァイアス DVD-BOX
- 発売日: 2009/11/25
- メディア: DVD