もう明日は戦極戦極っなので、いい加減にこれを書き終えないといかん。
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カール・ゴッチとルー・テーズ、そしてバディ・ロジャース
ゴッチとテーズの関係については、先行文章として「別冊宝島」に流智美氏が何度か書いていて、これが実に面白い。
よく引き合いjに出されるのが、猪木・坂口組とタッグで対戦することになったゴッチ・テーズが、控室で一緒にいるときに、ゴッチがありふれた世間話として
ルー、覚えておいて損はない。犬に噛みつかれたら、犬の前足を握って仰向けにし
おもいっきり自分の両ヒザを犬の胸に落とすんだ。 そうすれば簡単に死ぬんだよ。
http://blogs.yahoo.co.jp/kinsame/17289064.html
と語りかけたという一席。
人志松本のすべらない話、でゴッチにサイコロが当たって、この「犬の殺し方」を語ったらちょっとまずいよね。なんだそのシチュエーションは。
そして今回の那嵯氏の文章にも出てくる1964年のタイトルマッチの話も書かれていた。
■ゴッチはテーズのバックドロップの際、体勢を入れ替えて押しつぶしアバラを三本へしおった。
■テーズはエプロンのゴッチをドロップキックで転落させて王座を死守。
■テーズは入院、長期欠場・・・
という話は共通している。
流記事ではテーズが「カール!なんでこんなバカな真似をしたんだ、言ってみろ!」
ゴッチ「すまない、我を忘れてしまった・・・」という病院でのやり取りを紹介している。
で、上の「ドロップキックで転落させ・・・」というくだりですが、果たしてその背景は。
以前も紹介した
http://d.hatena.ne.jp/fullkichi1964/20081024
これは22年早かった藤波対前田ではなかったかと思うのですね。
本来はバックドロップでフイニッシュを迎えるべきだったこの試合、ゴッチが「このまま終わらせたくない!」とばかりにこれを潰したためにテーズが負傷、試合続行不可能と判断した両者がすかさず「場外戦→エプロンでのドロップキック転落KO」という道を選んだのではないか・・・。そもそもシュートマッチに「エプロンでのドロップキック転落KO」などという結末が生じようもないのではないか・・・。
というのに大筋で賛成。
と言いますか、つまりかつてのプロレスで、各地をサーキットする王者というのは、いつ何時仕掛けられるかもしれない・・・という緊張感と覚悟を持っていただろうと思うんだが、たぶん、すわシュートマッチか!というときに、
「おお、てめぇシュートで来る気か?上等だゴルァ」と受けて立って叩き潰すこともある(たぶん相手が計画的なときには)だろうが、意地っ張りの硬骨感が、試合中つい興奮・逆上してシュートマッチに”成りかけた”ときに、
「落ち着け落ち着け、これは仕事だろ?どうしてもやるってんなら受けて立つが、まぁひとまず冷静になれ」というふうに「間を置く」技術もだいぶ持っていたんじゃないか、ということで、ドロップキックでのリングアウト決着というのもそういうものだと考えれば分かるかなあ、というのが感想。
これは流智美氏がダニー・ホッジとテーズにについて書いた文章でも裏付けられる。
ホッジはテーズにかわいがられ、基本的には彼の用心棒的存在でもあったのだが、リング上で平手打ちとかSTFをされると”キレて”しまい、目がトロンとなって、プロボクシング無敗(だったかな?)で鳴らした鉄拳が襲ってくる。
この目になると、慌ててテーズがリング下に逃げ、ことなきを得たことがあるそうな。
ある逸話
流「テーズさん、ホッジと貴方は比較するとどうだったんですか」
テーズ「私のほうが関節技を知っていたからね。だけど関節技が使えない場もあるだろ?狭い場所とか」
流「では路上でのケンカでは、ホッジはテーズさん以上?」
テーズ「そんな心配はいらない」
流「ほう」
テーズ「なぜなら私は、ホッジと喧嘩するほど愚かではないからだ」
さっきの話では、結局事なきを得た試合後、ホッジがテーズに「テーズさん、わたしは貴方を尊敬しています。ついていきます。だけと平手打ちだけは(註:ほんとは「だけ」ではない)私、キレちゃうんでやめて下さいね」とお願いし、以後平手打ちをすることは無くなったとか。
この「シュートじゃない論」は無論、テーズを貶める意味ではない。チャンプでも二流三流なら、そういう局面に立ったときにうろたえ、おびえて、表面的な糊塗もできず不自然な醜態をさらす。シュート気味になったとき「ペースを変え」「相手を冷静にさせる」というのも王者の器の証明であり、それ自体でも評価に値するのではないか・・・ということだ。
ただ那嵯氏は「アル・ハフトの秘密命令を受けた意図的ななゴッチのシュート」という推論(説)も捨てていない。
だとしたら、まじもんのタマのやり取りの時に、アバラを負傷したテーズがドロップキックを使った・・・ということになる。もっとも、エプロンからの転落を狙う、相手を突き飛ばす技としてはありえなくもないかもしれない。
テーズは本当にやばい時は、左利きを生かしたストレートパンチや肱打ちで身を守ったという。(最期の極めはダブルリストロック)
シュート好きプロモーター、アル・ハフト
この人の名はよく聞く。
どこでも嫌われた、がちがちの実力派を、アル・ハフトは「銭のないやつぁ、おれんとこに来い」とばかりに面倒みてくれて、彼のテリトリーは一大シュート王国になった・・・という話はよく聞く。
で、いまだに覚えているのは
「カール・ゴッチvsディック・ハットンだったかジョージ・ゴーディエンコ」(覚えているといいながら肝心な部分を失念)をセミファイナルで組んだ。
ところがその日のメインはまさにルー・テーズで、そのプログラムを見て泡をくい、ハフトに
「なんでこんなカードを組むんだ!」
「私の趣味だ」
「バカっ!これじゃどっちかが、死人か障害者に確実になるぞ!これを中止しないなら私はメインを拒否する!」
といって中止にさせたという。そして両者とも、テーズに感謝した・・・とつづく。
剣豪小説で強い剣豪二人を引き分けにするように出来すぎた気もするストーリーだが、同時に「シューターを快く受け入れる大物」というプロモーターが、一転別のアングルからみれば「リスクの高い潰しあいを、雇った部下にやらせて楽しんでいる趣味の悪いオタク」というふうにも見える・・・ということで、総合格闘技隆盛の今、ちょっと思い返すと深い話である。
「バディ・ロジャース殴打事件」…じゃなくて「ドア利用骨砕き事件」
くそう、列伝のあのシーンのコマを、ここでこそ引用したかった。
ところでこの王者襲撃、
ゴッチとミラーはボスであるアル・ハフト(前述)の密名を受けて、後の好待遇での復帰を条件にオポジションへ”移籍”し、興行戦争の怨恨と見せかけてロジャースを潰した。バーネット派は仲のいいハフトとの”約束”を果たし撤退を決めた。
と、記事では推測されている。あまりに壮大な陰謀劇で、もし事実なら本当に当時の世界王者と言うのは駆け引きや政治的判断まで含めて、多くの危険と対峙しなきゃいけないんだなあと感心した。今の日本の団体交流や、UWFと新日の提携と抗争も生ぬるい。
で、政治とは別に実際の具体的暴行のさまは
「ロジャースが部屋を出るとき、ドアをゴッチが思い切り蹴って腕を意図的に挟み、破壊した」
という説が真実に近いとあって、これを小説でも採用した
http://homepage1.nifty.com/~memo8/griffon/0004.html
当方としては嬉しい。
いや、リアルに想像すると怖っ!痛っ!で、王者も客観的に考えると気の毒すぎるのだが。
ただこのアクションシーン、なんかこう映画やなんかでも使えるんじゃないかな?実践的というかハードボイルドっぽいし。
・・・というのが、今回の記事に対する感想でございました。
3日間におよぶエントリーを書けて、費用対効果はおおきかった(笑)。今後、那嵯涼介・流智美が組んで制作したゴッチ翁のドキュメンタリーDVDが発売される予定とのこと。