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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「天下之記者」まかりとおる!高島俊男の新刊、冒頭の名シーンを見よ

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080213#p6
で紹介した高島俊男の新刊が店頭に並んでいる。

「すこししらべて書く日記」でも紹介されているね。
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20080304/yomitai
まだ自分も読み始めたばかりだが、これまでの高島氏の本と比べると有名中国武将や古典の話でも、言葉や漢字のトリビア、「日本一受けたい授業」的なものでもないから売れ行きは少し悪いかもしれない。

ただ、やっぱり名人級の文章のうまさ、呼吸には酔わせるものもあるし、主人公たる山田一郎、名前の平凡さとはうってかわってなかなか魅力的な人物のようだ。
とくに、冒頭部分がシビレたので紹介したい。
この「天下之記者」とは、豪傑の自慢自賛自己宣伝が、実は今以上に明るく堂々と行われていた明治大正時代らしい、山田の自称かと思っていたのだが…

「天下之記者」とは何か。
この山田一郎という人は、明治時代のなかごろ、どこの新聞社にも所属しないで、全国二十余の新聞に記事を書き送っていた新聞記者であった。当時そんな人はほかにはいなかった。

あるとき、全国各新聞の記者のあつまりがあり、幹事が参加申しこみのはがきをしらべていると、ただ「山田一郎」とのみ書いた一枚があった。この名前にはみな見おぼえがあるが、さて所属はどこであったか。静岡だろう。いや富山ではないか、とワイワイ言っているところへ、たまたま犬養毅(木堂)がはいってきて、「ナニ山田か、山田はネ、天下之記者さ」と即席の妙評、たちまち満場の喝采を博して、出席者名簿には「無所属記者」と記入され、「天下之記者」は以後山田一郎の別称となった。
「無所属記者」は今の語でいえばフリージャーナリストである。「天下之記者」はそれにいささか修辞をくわえたものだと思えばよい。
(p10.一部漢字は新字にした)


ここに浪漫や痛快さを感じますかね。感じませんか。
そういう人は仕方ないのでご縁が無い話ですが、「新政府はみなさんでおやりなさい、世界の海援隊でもやりましょうかな」の坂本竜馬アレキサンダー大王様がなんでも望みをかなえてくれる?じゃあ、そこどいてください、昼寝の邪魔だ」と言い放ったディオゲネス、そして雲のジュウザ前田慶次のような、「自らのほか何もなし」、という、男にとって一番輝く勲章を持った男たちの系譜。
そこに山田一郎氏もつながるんじゃないかなあ、とまだ前半も読んでいないうちから勝手に思っています。