夏目房之介と江川達也の「坊ちゃん」をめぐる対談が
http://gumbo.jp/pc/talk/1/01.php
にて読める、と
http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/
で紹介されている。江川氏からすれば同じ明治の時代を描いて、「日露戦争物語」の失敗(←完全な自己責任だと思うが)にリベンジ!!という思いがあるのかもしれない。
でまあ、ちょっと我田引水ですが、ずーっと昔に自分が書いた「坊ちゃん」の紹介文を思い出したので再掲載しようかなあ、と。つっても文章はご覧の通りの若書きだし、核心部のアイデアは文中にもあるように借り物なのですが。
あと、この借りた先の説はその後順調に広まり、今ではこの視点は当時よりずっと知られていると思うから、紹介文としての価値も減っていると思う。
だがまあ、一応。
「坊ちゃん」はハードボイルド小説である!」
という命題は多少唐突かつ奇妙に聞こえるだろう。しかし、まあ聞いてくれ。
ある正義漢(坊ちゃん)が単身、地方の組織(中学校)に赴任した。
だが、そこは無能な上司(狸)と、実権を握るNo,2(赤シャツ)が支配する腐敗した所だった。
彼はその中でも一人だけ筋を貫こうとするが、狡く卑屈な民衆(生徒)はついてこない。
そしてNO,2(赤シャツ)はますます横暴を極め、実直な男(うらなり)の女性(マドンナ)を奪ってしまい、陰謀によって正義漢を追放しようとする。
正義漢は、一度は策略に乗せられ対立したが、今では心を許せる親友(山嵐。余談だが、なぜかハードボイルドでは、「親友」と書いて「とも」と読む)と共に、法律では裁けない悪を懲らすために立ち上がる・・・・
カッコ内の固有名詞をひとまず忘れて、基本設定だけを読んでみよう。そして、主人公に、米国はロサンゼルスのうらぶれた警察署に赴任した、トレンチコートに安煙草を加えた、そろそろ中年にさしかかった刑事をイメージする。
するとどうだ、たちまちハードボイルドのできあがり!である。
この発見は、この前著作を紹介した、関川夏央氏によるものだったと思う(註:沢木耕太郎かも)。
ところで、漱石の研究者にいわせると、漱石の文体には落語の影響が強く感じられるそうだ。
なるほど、そう言われてみればもっともな話である。あの痛快にして軽妙な語り口は、落語無くしてはありえなかったろう。あの当時の江戸っ子は、「野暮」が嫌いで、自分を「粋」にするためにいかなる不利も惜しまなかった。
これが、ハードボイルドの「ダンディズム」とどこかで繋がるのかもしれない。有名な落語の「三方一両損」で落とした金をいらないという落し主と、そんなものを貰えるかと怒る拾い主との喧嘩は、山嵐と坊ちゃんの喧嘩を彷彿とさせる。彼らがその意地の為に結局は一両ずつ損をするように、坊ちゃんも結局は学校をやめるのに赤シャツは学校に残る。結局は坊ちゃんは敗北した。それは「江戸」が「東京」(近代)に負けたことを意味している。(このへんも関川(沢木?)氏の論考による。)
コラムニスト・山本夏彦は「我々が「明治の人」と呼ぶ人は、実はその人格を封建時代に形成した人だ」と指摘している。坊ちゃんも漱石も、封建の人である。
我々は彼らを、理解できるだろうか?
・・・・・・あまり自信はない。
- 作者: 谷口ジロー,関川夏央
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2016/02/15
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (4件) を見る
- 作者: 関川夏央,谷口ジロー
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2014/06/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 作者: 関川夏央,谷口ジロー
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2010/12/15
- メディア: 大型本
- 購入: 1人 クリック: 16回
- この商品を含むブログ (8件) を見る