話があちこちに飛んで申し訳ないが、フジテレビの株主総会と関連していなくも無い。
この著者・大鹿靖明氏(AERA記者)は以前から同誌で名前を目にして、印象に残っていた。
なんか、えらくライブドアの側に好意的な記事を書くなあ、という人として(笑)。まあAERAは全体的にそういう部分もあったのだが。
この本を読んで、単なる御用記者ではないことは分かったが、公平無私だともやはり思えない。
しかし、kamiproじゃないけど、色が付いていればそれなりに情報も入ってくるので、この大鹿氏もライブドアの宮内亮治氏に携帯電話一本で話せるなどの人脈を築いており、その情報を基に、一騎に読める手に汗握る読み物になっていることも事実だ。
ライブドアの強制捜査、
さかのぼってニッポン放送買収、
ホリエモンの総選挙出馬、
TBS対楽天、
村上ファンドの阪神株買占め
などを重層的に追ったこの書をあらためて読んでいくと、どの事件でもそうだが、ついちょっと過ぎてしまうとそれが「必然」だったかのような感覚になってしまうが、かなり危うい、どっちにころぶか分からないような場面も多かったのだなあ、と思いしらされるわけです。
たとえば裁判所がライブドアに軍配をあげた、フジへの新株予約権割り当て。
裁判所に提出する意見書でも、ニッポン放送側が圧倒的にリードしているように思えた。ニッポン放送側は、斯界の権威である(略)教授らを大量動員していたからだ。(略)ライブドア側についた学車体の意見書は、ニッポン放送側に回った斯界の権威である学者の著作や論文から彼らのこれまでの学説を引用しながら、彼らに反論する形を取っている(略)と停車絵画色濃く残る法学界では、弟子や門人からの批判はかなり異例のことだったようで、後々「人間関係がギクシャクした」と証言する学者もいる(P160)
ここでライブドアが大勝利したことが、問題のさらなる巨大化につながっていたのだ。
また、別の感想だが、こういうドラマは「弁護士の物語」でもあるのだなあ、ということ。当初は表には出ないが、実のところ一番戦略を練って、このチェスゲームの差し手になっているのは双方の弁護士だったりするのだ。もちろん、PRIDEやK-1の問題もそういう面が無いとは思えない。
そして外資系金融(笑)。
だめだよ、こいつらに日本のマネーゲーマーが勝つのは、ブラジルに日本が総合格闘技やサッカーの世界で勝つのより難しい(笑)。
また、村上世彰とホリえもんの関係も興味深い。
これは村上逮捕の直前に出たので、ライブドアのニッポン放送買収に村上がいかに関わったかはやや浅いが、それにしても一緒に株を買い進め、共同でフジを支配しようとしておきながらシレっと売り抜ける村上氏(笑)。その後、もう一回買おうということで、ライブドアに「これからは僕が買うから、もう買わないでくれ」とずーずーしい要請をしている。
逆に、村上の「TBSは非常においしい企業」というインナーサークルの情報を、村上への嫌がらせか単なる目立ちたがりか、セミナーで公言し、村上に「あいつに言うと、すぐしゃべる」と苦虫をかみつぶさせている。その後楽天がTBSに手を伸ばしたときは、村上はライブドアに「すまんな、今回は三木谷と組む」と仁義を切られ、ライブドアはTBSにその情報をもらしたとも言われる。
こうやって、あるときは手を組み、あるときは対決し、「ヒルズ黙示録」の登場人物はハルマゲドンの地に集結していく。
ところで、ライブドア事件を追ったものが、何より気になるのが野口英昭エイチ・エス証券副社長が沖縄のホテルで”自殺”した一件だと思う。
しかし大鹿氏は
一部のメディアは狂奔するすことになったが、そうした『他殺説』の展開によって最も安心したのは、東京地検特捜部だろう。(略)「他殺説」の流布によって、知見は自らの責任追求を回避することが出来た。野口の自殺の真相はいまもってわからないが、事件の全体像を知る立場にあった野口の自殺は・・・
とけんもほろろ。
ただ、他殺説に立った各種メディアの報道のどこが間違っていて、自殺という警察の発表がなぜ正しいのかという論証は一切抜きで、自殺を所与の前提として記述している。もともとそっちのことを追う記者さんではないし、警察が発表して捜査は終結したんだからそれを前提にしてなにが悪い、というのももっともなんだろうが「くさいものにフタ」という印象もやや残る。
どちらにしても、一読の価値がある本です。
- 作者: 大鹿靖明
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2006/04
- メディア: 単行本
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