http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20051013#p2から続きます。
さかなの中においてキングオブキングスは、だれがなんと言おうとうなぎ以外にあるまい。
まさに「絶対王者」。
しかし、このうなぎさん、実は生態、食性など数々の面で実は正体不明!!
どこで生まれ、育ったのかは厚いベールに包まれた、何がまっとるか分からん神秘ゾーン・・・。
グレイシーや大東流合気柔術はおろか、鳳龍院心拳院長・清水伯鳳氏をも凌ぐ、底なしの神秘を併せ持った存在であるのです。
(清水伯鳳氏について知りたい方は大槻ケンヂ『猫を背負って町を出ろ』、または紙のプロレス14号(1995年)を参照。余談もいいとこだ)
しかし覆面レスラーの正体と同様、謎が謎であるほど知りたいと思うのは人の性。
多くの科学者が、このうなぎについて地道な研究を続けているほか、世界各国の漁師や釣りキチ、料理人が膨大な経験と蓄積を持っています。
それをまとめた最近の本がリチャード・シュヴァイド「ウナギのふしぎ」である。
- 作者: リチャードシュヴァイド,Richard Schweid,梶山あゆみ
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2005/06
- メディア: 単行本
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わざわざ外国人の書いた本を翻訳しないでも、日本のライターにいくらでもウナギについて一冊書ける人はいるだろ、という声もあるかもしれんが、それはそれ。
世界中を旅して回り「ゴキブリたちの優雅でひそやかな生活」などのサイエンス読み物を書いた経験のある人だから、書けるというものもある。
彼は、アメリカの田舎町、ノースカロライナ州東部から筆を起こす。
実はウナギというもの、決して世界中で普遍的に食べられているわけではない。
地域的にはけっこうウナギ食文化は偏っていて、輸出専門という地域も結構ある。
まあ世界中で食べられて品不足になってしまっても困るのですが、それでもUSAで
「ウナギなんて絶対に食べないわよ。だって、ヘビみたいじゃないの」
(小物店経営、ルシール・トゥルーイットさん)
「どうもそういう気にならなくってな」
(漁師、ビリー・トゥルーイットさん)
「いちばん忘れられているのはウナギ料理でしょうね」
(デラフィアシーフード社、バリー・クラッチマン社長)
「もうみんな、ウナギをいじくり回すのはいやなんだろうよ」
(魚市場経営、ハーブ・スラヴィンさん)
などという証言を聞くと、海原雄山じゃあるまいしだが「この、味覚音痴のアメ○カ人が!」などという偏見に満ちた言葉が口をついて出そうになる(笑)。
ところが、イギリスから彼らが(勝手に)入植した際、食物がなく窮地に陥ったとき、親切なネイティブ・アメリカンがこの魚を食べることを教え、貴重な蛋白源となったというから面白い。
その名はティスクワントゥム。
ティスクワントゥムは記録に残る最初の、そして本物のアメリカンヒーローであり、心が広く憐れみ深い人間だった。まず入植者にとうもろこしを分けてやり、育て方のコツを授けた。さらには動物の狩り法、野生植物のとり方、食べられる木の実や果物の見分け方、魚の獲り方すべてを手ほどきしてやる。
魚の中で、かれがいちばん最初にとり方を教えたのがウナギだった。
この本の中のアメリカ編では、アメリカの河口湾で漁によって糧を得る人々や、水槽つきトレーラーにウナギを満載し、欧州向けに輸出するため空港に向かう運送業者などが描写される。
彼らは決して裕福でも洗練されてもいないが、実にたくましい。自立の精神にあふれ、政府や福祉というものに頼らず、その分他人にも干渉しないし、自分への干渉も嫌う。
いわゆる「レッド(共和党支持)のアメリカ」の風景を垣間見ることが出来たのは、ちょっとした意外な収穫だった。
いや、それ以上に漁師というものが持つ特質なのかもしれない。
ノースカロライナのウナギ漁師たちは・・・独立独歩の精神がないと、漁師のような仕事はやっていけない。誰にも邪魔されすに自分たちの暮らしができることを、彼らは何より大切にしていた。・・・一歩一歩着実に進みながら生きている人間の中には、漁師の生き方が無性に癇にさわるという者も少なくない
人付き合いがよかろうがわるかろうが、漁獲量に関係ないものな。
「カムイ伝」にも、独立独歩の漁師が鰹節加工の労働者となり、誇りを失っていくさまが描かれていたっけ。こういう本http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20050901#p1とも合わせて考えてみよう。
ところ変わってヨーロッパでは、こちらはウナギは高評価。
ドイツでは燻製が好まれるし、イギリスでは下層階級の食べ物として、また現在は年寄りの食べ物となって廃れつつあるものの、煮凝りやパイが食べられている。
英国最大の淡水湖・北アイルランドのネイ湖で、神父の指導の下、漁師たちの組合が、この湖を牛耳る会社から漁業権を奪っていくドラマのことも触れられていて面白い(もちろんIRAも関係してくる)
そして、スペイン、ことにバスク地方を中心とする地域では、シラスウナギ(ウナギの稚魚)の漁が盛んだ。それは卵の大量孵化育成にいまだかつて人類が成功せず、養殖はすべてまず稚魚を野生から捕まえなければならないからで、スペインの漁師さんたちのおかげで日本人は養殖ウナギが食えるのです。
大量に海から川をのぼってくるシラスウナギは、「柔らかい壁が押し寄せてくるようだ」と描写されている。
そして、これをつかった料理がアングラス。なにやらゴジラのライバルのような名前だが、「ウナギを蒲焼以外で食う馬鹿どもがいるのか!?未開野蛮の連中は困るね」という排外的ナショナリズムに満ちた私なんぞも、記述を読むと思わず生唾を飲み込む。
シラスウナギと、にんにくのみじん切りと、ギンディージャと呼ばれる辛味の少ないとうがらしを、オリーブオイルで炒める料理である。オーリブオイルは、熱を加えず加重だけで搾るコールドプレスという方法・・・しかも一番絞りでないと・・・熱々のうちに出てくるので、食べるときは必ず木のフォークを使う・・・きめの粗いパスタのような食感ながら、かすかに背骨のしゃりしゃりした歯ざわりがあって、後に魚とにんにくのほのかな風味が広がる。ギンディージャの爽やかな刺激もいい。
ううむ、確かに美味そうではあるがこんなのが出る店なんてそうはあるまい。
というわけで、これからウナギを食べに行ってきます。日本の。
ただね、各地の漁の風習も民族料理も興味深くはあるが、それよりさらに脅威なるはウナギの生態と科学!まさに目がテンになるその自然の恐怖、これをまた後で、別のエントリでご紹介しよう!!(しかし、たった一冊をここまでしつこく論じてるからいつも未紹介の「在庫」がたまるんだ、ここのブログは)