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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

そのクールビズを論ず。同調圧力とその応用

さて、始まったときから言いたいことがあった「クールビズ」運動。
非常に絶好の機会を得たので縦横無尽に論じよう。
まず、基本的に私は大賛成なのですね。というか、職場環境的には非常にやりやすいこともあって、個人的には前から実行していた。
議論としては、簡単すぎるぐらい簡単な話で、「日本の夏は、湿度の関係もあって熱帯並み(以上)に暑苦しいのだから、ヨーロッパ起源のドレスコードをそのまま適用するのが間違いである」「服装を涼しくすれば、そのぶん冷房が節約できる」。
これ、いわゆるディベートとしてはどんな反対論も粉砕できるぐらい、論理的に説得力ある議論である。

私が珍しく、非常に珍しくあの、筑紫哲也と意見が一致している。

http://www.kinyobi.co.jp/pages/vol561/fusokukei

「持続不能」の夏(筑紫哲也)
「女性の気持がわかるでしょう」

 クール・ビズなどというのが始まる1年前、猛暑の昨夏から番組でも日常でも、沖縄の夏期フォーマルウェアかりゆしウェア」を着用するようになってから、よくそう言われる。

 この国の室内冷房は背広、ネクタイの男性に合わせて温度設定されてきたから、ブラウス、スカートの女性にとっては寒い。気持がわかるどころか、サマーセーターを用意して防備態勢をしてきた女性たちとちがって、文字通り「不用意」に始めてしまった私はもっと寒い目に遭うことが多い。


(略)・・・私が「かりゆし」を着だしたのは単純な理由である。沖縄から戻って来ると東京のほうが暑く感じたからだ。そして、各地の最高気温をチェックしてみたら、沖縄は「安定した暑さ」(ほぼ毎日31度)なのに対して、東京をふくむ本土ではそれを上回る上下動を繰り返していることがわかった。それに、風が島を吹き抜ける沖縄より、コンクリートで固められ、空気も濁っている東京のほうが同じ温度でも体感ではよほど暑いのだ。「涼しい沖縄」で軽装なのに、なんでこちらが暑苦しい姿をしなくてはならないのか、とバカバカしくなったのである。

 私にならった(?)クール・ビズが定着するかどうかは興味深い文化論だが、威厳と恰好をつけたい人、世間の目を気にする人が多い社会では、まず無理だろう。まして「持続可能性」など気にもとめていない国では――。

文章に、朝ジャや「話の特集」時代のコラムでふんぷんと漂わせていた、彼独自の「謙遜するように見えて自慢する」独自の臭さがあるが、この際そこまではつっこむまい。


ちなみに、もうこれを30年前から指摘していたのが山本七平だ。(記憶によるが、たしか「時評 にっぽん人」という本)彼は、戦争中フィリピンにいて、英語が重宝がられていろんな人にあったらしいが、そのころから彼らは独自のフォーマル・ウェアの・・・なんつったかな、検索すりゃ分かるか。
とにかく、麻製の涼しい正装を定めていたのだそうである。
(検索すると、「バナナ製」という人もいらっしゃる。正式名称は分からなかった)
http://blog.so-net.ne.jp/tiikikango/2005-06-07

http://rokujo.seesaa.net/article/4075118.html

http://plaza.rakuten.co.jp/musicmatters/diary/200506200000/


村山富市首相がなにかの国際会議に参加したとき、各国首脳と一緒にこれを着たことがなかったかな?


さて、この種の軽装運動は石油ショックの際、半そで背広「省エネルック」として登場した(そもそも省エネ自体が当時の造語だ)。しかし、政治家でも羽田牧首相が意地になって?使い続けたぐらいで、石油ショックの風化と共に滅亡。
これはこれで不思議でもあり、当然でもあり。
要は、やっぱり最初は長袖でデザインされたものを、ただ単に半そでにしただけだと、ファッションに疎いオジサンオバサンであっても「かっこ悪いなーーー」と思われてしまったんだよ。やっぱり無理やり半そでにするのは無理があった。
なあ中村和裕(笑)。

冗談はともかく、その失敗を踏まえ、ノーネクタイという視点からシャツのデザインを考案、そしてそれを「クールビス」という名前で、官庁の運動として内閣で申し合わせてやり始めたのは、かなり上出来のやり方だと評価していいと思う。
じっさい、クールビズはてなキーワードでも閲覧率は多いし、賛否両論を含め多くの議論がされることで知名度が一斉に浸透した。
賛否はともかく、「ああ、クールビズか」と納得してもらえるだけでも進歩というものだ。


さて、じゃあその後、どうやって浸透させていくのか。
ここで、このブログではお馴染み、藤子・F・不二雄のSF短編を持ち出してこようと思う。
さあ、ついて来られるでしょうか皆さん(笑)。


その作品とは「オヤジ・ロック」。いちおう短編集のはまぞうリンクを張っておくけど


実際に彼の短編集の何巻に収録されているかはわかりません。何度も版がかわったり文庫化されたりしてるからね。
【補足】メールを貰った。
この巻(ミノタウロスの皿)でいいらしい。

藤子・F・不二雄先生は基本的に論理性を重んじ、きちんと話の起承転結、ああなってこうなるという分かりやすさをムードより優先させる作風ですが、これは珍しくなんというか・・・
江戸川乱歩がいうところの「奇妙な味」のSF漫画なんですよね。

さてこれは偶然にも、暑い夏の一日を描いている短編だけれども、だからクールビズに関係してるわけじゃないですよ(笑)。賢明かつ熱心な藤子信者は既にお気づきであろうが。



【ここから続きです:ややネタバレもあり】
この「オヤジ・ロック」は、真夏の公園で、扱う商品が全然売れないと嘆く二人のセールスマンが出会うところから始まる。片方の売り物は、あたかも頑固親父のように、家庭に安心と安らぎをもたらすという、プラスチック製の模造岩「オヤジ・ロック」。
「僕はセールスマンとしていささか自負はありますよ、しかしニーズが無いものは売れないんだよ!」とぶちきれる男に、もう一人の男は、「いや、ニーズがあっても売れないものもありますよ」と愚痴る。
その男の売り物は自作の「簡易タイムマシン」(笑)。
オヤジロックのセールスマンは、半分冗談で「タイムマシンをお借りできれば、この岩もバカ売れさせてみせます」と請け負い、その機械を借りると、これが本物!!

セールスマンは、そのタイムマシンを使ってあれよあれよという間に、そのオヤジロックを在庫切れになるまでに売りさばいてみせる。

(註1:タイムマシンがあれば、もっと簡単に金儲け
できるはずだって?それが「奇妙な味」なのです)

でも、時間移動機に過ぎないタイムマシンで、どうやって何の役にも立たない岩を売りつけられるの?ベテラン・セールスマンは、得意満面でタイムマシン発明家に解説する。

「日本の普及率は、50%を超えると急上昇するんです。
クーラーしかり、カラーテレビしかり!」

「『あなただけが持っていない品』これにまさるセールスポイントがありますか?」

彼は、訪問先の奥さんと一緒にこっそり「オヤジロックをみんなが買っている未来」に飛び、「自分の家だけがこの商品を知らない、持っていない」という状況に追い込むと、あっという間に飛びつく・・・というのがその仕掛けだったのです。

(註2:これを読み「じゃあ、最初にどうやって買わせて、未来を『みんな買っている状態』にしたんだよ?」と突っ込んだ諸君、たいへんSF心があってよろしい。これがいわゆる、タイムマシンものの「存在の環」というやつです。もっと分かりやすい例をあげると、ドラえもんの「あやうし!ライオン仮面」を読んで欲しい。来月号のアイデアを思いつけない漫画家が、タイムマシンで来月号を買って、内容を丸写ししたら、その来月号は結局だれが描いたの?という話ですね。基本的にはそれと同じ)

このあと、もう一段皮肉なオチがつくのだが、それはご自身で読めということで。


本当にこの作品は読み返してみると、実によく私どもを含む日本人の「千万人が行くなら我も征く」(C:山本夏彦)「メダカ民族」(C:本多勝一)を表現している。

もう一つ有名な小噺に
http://www.life-studio.info/zatsugaku_kobo/nation1.html

海に飛び込む時
「洋上を、ある一隻の豪華客船が航行していました。しかし、不意にその船は大火災に見舞われてしまったのです。船長は、船に乗っている人々を素早く海に飛び込ませないと、彼らの命はないと判断しました。この船には、様々な国の人々が乗り込んでいました。どういえば、スムーズに乗員の命を助けることができるか・・・どうやったら、怖がる人々を海に飛び込ませることができるのか・・・船長は思案の末、以下の様に言いました。」


イギリス人には「紳士はこういう時に飛び込むものです。」
すると、イギリス人は海に飛び込みました。


ドイツ人には「海に飛び込め。これは厳粛な命令である。」
すると、ドイツ人は飛び込みました。
 

フランス人には 「決して海に飛び込まないで下さい。」
すると、フランス人は飛び込みました。
 

イタリア人には「さっき美女が飛び込みましたよ。」
すると、イタリア人は飛び込みました。
 

日本人には「さあ、みんな飛び込んでいるだろう?君も飛び込みなさい。」
すると日本人は飛び込みました。


日本は、首相閣下がクールビスを実践しようと、厚化粧の環境相が休憩時間にしょうもないコントをやろうが、それで下々が従うということは無い。(これはこれでいい。政治家の一挙手一投足に唯々諾々と追随する社会のほうがヤだ)
むしろお隣、ご近所、その職場の中でだれがどう着てどう振舞って、だれが眉をひそめだれが「おお、そっちのほうがいいね」と言ってくれるか・・・・これによって、いつしか方向性が決まってくる。「世間」ともいい「空気」ともいう、アレだあれ。


で、実は首相閣下や環境大臣閣下のやっていることは、ダイレクトな権威で庶民どもに真似させようというのではなく、この「この格好でもいいのかも・・・」という雰囲気づくりを、狙っているもののはずだ。
よくも悪くも、日本はそのような形で「多数派」をじわりじわりと醸成したものが勝利する。そして、過半数を制すれば、あとはオセロゲームの終盤戦のようにつぎつぎとひっくりかえっていくのだと思う。


ちなみに、その「雰囲気」(「世間」OR「空気」)の醸成にいちばん即効性があるのが、・・・ひょっとしたら「皇室」であるのかもしれない。よくも悪くも。

奇しくも昨日、「ヤマザキ天皇を撃て!」と絶叫し突撃した「神軍平等兵」にして「神様の愛い奴」である奥崎謙三氏が他界されていた。


http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/fu/news/20050626k0000m060108000c.html

奥崎謙三さん85歳=「ゆきゆきて、神軍」に出演

 ニューギニア戦線で生き残った元日本兵が上官らの戦争責任を追及したドキュメンタリー映画ゆきゆきて、神軍」(87年、原一男監督)で知られる奥崎謙三(おくざき・けんぞう)さん(85)=神戸市兵庫区=が16日、神戸市内の病院で亡くなっていたことが25日、わかった。死因は多臓器不全。

 奥崎さんは兵庫県出身。第二次世界大戦中、陸軍の上等兵としてニューギニアに従軍し、戦後は神戸市内で自動車部品販売店を経営。69年1月、皇居一般参賀中、昭和天皇に向かってパチンコ玉を発射し逮捕された。この事件について書いた「ヤマザキ天皇を撃て!」などの著作もある。映画「ゆきゆきて、神軍」の中では、元上官を訪ね責任を追及、この元上官に暴行を加えるなど過激な行動が収められている。

 衆院選に立候補中の83年、上官だった元中隊長宅を訪問し、居合わせた長男に拳銃を発砲。兵庫県警に殺人未遂容疑で逮捕され懲役12年の判決を受けた。

 出所後は1人暮らしで、近年は病気がちだったという。昨年8月に自宅で倒れているところを発見され、入院生活を送っていた。死ぬ直前まで院内で「バカ野郎」と叫んでいたという。