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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

19世紀浪漫−−山本弘、古典SFを紹介す

(改題しました。元の題は「「勇将ジェラール」を知っていますか」)

映画「宇宙戦争」、いよいよ今年公開ですな。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E5%AE%99%E6%88%A6%E4%BA%89

宇宙戦争』はまた、H・G・ウェルズの小説 "The War of the Worlds"(1898年)の邦題でもある。リメイクされたラジオドラマが聴衆にパニックを引き起こしたことで有名。

そのラジオドラマは、1938年10月30日に、アメリカのCBSネットワークにおけるマーキュリー劇場という番組で放送された。宇宙人が地球(アメリカ)に攻めてきたという内容である。現場からの報告など、実際のニュース放送のような形で放送された。そのため、多くの市民が現実に起きている出来事と勘違いし、パニックを引き起こしたのである。そして、その作品をプロデュースしたのは、オーソン・ウェルズである。
また、このパニックを題材にしたTV作品(アメリカが震撼した夜)も作成されている。
2004年11月現在、巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演による映画化が進められている。 公開は2005年夏予定。共演、ティム・ロビンスミランダ・オットー、ダコタ・ファニング他。 映画の原題は小説と同じく『The War of the Worlds』、邦題も『宇宙戦争』である。

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でね、もっと広く考えると、興行的にはこけたっぽいんだが、同じくウエルズの「タイムマシン」もこの前映像化された。もっともだいぶ改変されているが。
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/la-mer/pro-tma.html
ドラキュラも、原作に忠実なバージョンの映画がこの前作られた。

そして、ウエルズの(SFの)ライバル、ヴェール・ヴェルヌの作品も、これまたこけたっぽいが「80日間世界一周」が「80デイズ」としてリメイクされ、我らが謙吾選手もチョイ役で登場したという。


かくのごとく、19世紀(註:ちょっとばかり20世紀に被っているのもあるが、まあ雰囲気です雰囲気)の古典作品が持つオモシロさというのが見直されている状況という気がします。


小生は何回か書いたけど、このへんの古典SFや古典推理というのが大好きで、現在の作品よりむしろ馴染む感じがするぐらいなんですよ。これは子供のころに図書館に入り浸ってたせいでしょうね、どうしても子供向けノベライズ本、しかも図書館に揃っているということになると、歴史的に評価の定まった作品ということになるから。

そんな昨今、なかなか面白い古典SF紹介本が出た。

トンデモ本?違う、SFだ!

トンデモ本?違う、SFだ!

この人も、本来の自分の小説はハードSFが中心なんだよな。
前、「RPG文化が日本に根付く過程を『まんが道』や『プロジェクトX』のように記録として残してほしい」と書いたことがあるけど、この人もその黎明期の開拓者の一人らしい。
しかし、何と言っても一般に知られるのは「トンデモ本の世界」でしょう。これの基となったコラムが「宝島30」創刊号を飾ったときから、その面白さぶりは際立っていた。そして「トンデモ本」「トンデモ」という呼び名も定着、折からのオウム事件もあって社会的な意義さえ負わされました。


トンデモ本の世界 (宝島社文庫)

トンデモ本の世界 (宝島社文庫)

・・・ただ、マジメなオカルト批判と、最初の「オカルト系のバードウォッチング、あくまでも面白がる」という話にどうバランスをとるかで困難に陥り、最近の失速は否めない。というか、もともと3冊ぐらいでコンセプトは書ききった部分もあるしね。

閑話休題、またわき道にそれた。
その山本弘さんが、面白いSFを紹介するいわばブックガイド、書評本を書いた。
なぜかSFやミステリーというのは、書評自体が楽しいものが多く、前に紹介した「SF教室」のほか、福島正実が筆をとった「SFの世界」という本も傑作。結局は、書いてる人が楽しんでいることに尽きる。


山本氏は、SFをこう定義する。


(ホラー、アンタジーとSFの)違いは、筋を通すかどうかにある。
「幽霊が現れたら、悲鳴をあげて逃げるのがホラー、幽霊とお友達になるのがファンタジー、幽霊を捕まえて研究するのがSF」
僕はこんな定義も提唱している。ホラーやファンタジーでは、設定が論理的である必要はない。しかし、SFに幽霊を出すなら、幽霊なるものがどういう原理で存在するのか、どういう性質を持つのか、幽霊が存在することによってどのような問題が発生するのか、そういったことを設定しなくてはならない。「デタラメをデタラメでなくワンダーと感じさせるための」仕掛けが必要なのだ・・・

その彼が、最初に紹介するのがジュール・ヴェルヌの「月世界旅行」であった。(創元推理文庫では「月世界へ行く」)


この本は、ヴェルヌの本は多く読んでいる自分もなぜか読んでいなかった。しかし、山本氏の紹介は非常に簡潔ながら要領を得ており、たいへん人に食指を伸ばさせるものだ。

物語の冒頭、軍人や大砲製造業者の会「ボルチモア大砲クラブ」の面々が、南北戦争が終わって平和になり、大砲の出番がなくなったことを嘆いている。・・・せっかく考案した新型大砲の活躍の場がないので、「太平洋の向こうの強国に宣戦布告できるような紛争もないのかい・・・(略)・・・今度はイギリスがアメリカのものになる番じゃないか」

海底二万里」や「十五少年漂流記」にはこんなブラックユーモアなかったぞ(笑)。
今の世相に対比しても無論おもしろい。

そこに大砲クラブの会長インビー・バービケインが登場、巨大な大砲で月に放談を打ち込むという大プロジェクトを発表し、たちまち熱狂的に受け入れられる。
ニュースを聞いたマスコミや大衆の大騒ぎ、世界各国からの資金の調達、大砲の建設予定地をめぐるテキサスとフロリダの誘致合戦・・・

筒井康隆氏の初期作品を思わせるスラップスティックなノリ、と山本氏は書いている。
ここから新素材アルミニウム、計算に基づいた軌道や発射場所の特定、その巨大な「砲弾」を作るための鋳造場の風景・・・そういう、元祖ハードSFの面目躍如な部分を紹介しつつ、山本氏はその背景となる人物像にも着目する。

とりわけバービケインとその不倶戴天のライバル、装甲版開発者キャプテン・ニコルとの確執の書き方がうまい。
物語の中で、ニコルについては何度も言及されるものの、彼はなかなか登場しない。・・・(二人は)もっぱら手紙による欧州で、互いに憎しみを燃やしている。
当初、砲弾は無人で発射される予定だった。ところが、いよいよ大砲が完成したとき、大西洋海底電線を通って、フランスの冒険家ミッシェル・アルダン(こいつの性格も面白いのだが)から電報が届く。その砲弾に乗って自分が月に行くというのだ。その無謀な案を巡って、またまた議論が沸騰する。
・・・アルダンがフランスから到着、聴衆の前で大演説をぶつ。ところが聴衆の中に、様々な根拠を挙げ、計画を執拗に批判する人物がいた。二人の議論は白熱する。
・・・(最終的にはアルダンの主張にOKが出るが)バービケインはその男と二人きりで対峙する。


「お前は誰だ?」とバービケインが聞いた。
「キャプテン・ニコル」
「思った通りか」
うわっ、かっこいいーっ!さんざん待たされたニコルが、こんなにも劇的に登場するとは。僕はこのシーンを読んで震えが来た。

不屈のチームリーダー、偏屈で皮肉で、時にリーダーと対決する機械一筋の技術屋、ややお調子者で詩人的な冒険家・・・今のエンターテインメントにも脈々と受け継がれている人物造形が、ここにもあったというわけですね。温故知新とはこういうことでしょう。


(続く)
いやー、ブログというのは字数制限がないから、あれば省略してすっきりまとめるところを、全然切り捨てずに大作化してしまうという「黒澤明現象」が発生してしまいます。おかげでタイトルとは全然かけ離れてしまいましたが、それは続編にて。
また、山本弘氏の公式HPはhttp://homepage3.nifty.com/hirorin/