ここで(あまり必然性なく)名前を出してしまったついでに(笑)、夢枕獏 の旧作についてちょっとメモしておこう。
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この前、少年サンデーの総大主教 ・高橋留美子 猊下 の「MAO」 に、こんなやり取りが出てきましてな。
高橋留美子 「MAO」 より、言葉は呪いである
で、これと同じことを夢枕獏 が「陰陽師 」で書いていたと。岡野玲子 の漫画版でどうぞ。てか、
かなり有名な場面と、両者のやりとりだよね。
夢枕獏 「陰陽師 」より、呪とは言葉夢枕獏 「陰陽師 」より、呪とは言葉
小説版を見てみようか。
「うむ。この世で一番短い呪とは、名だ」
「名?」
「うん」
晴明がうなずいた。
「おまえの晴明とか、おれの博雅とかの名か」
「そうだ。山とか、海とか、樹とか、草とか、虫とか、そういう名も呪のひとつだな」
「わからぬ」
「呪とはな、ようするに、ものを縛ることよ」
「たとえば、博雅というおぬしの名だ。おぬしもおれも同じ人だが、おぬしは博雅という呪を、おれは晴明という呪をかけられている人ということになる-」
しかし、まだ博雅は納得のいかぬ顔をしている。
「おれに名がなければ、おれという人はこの世にいないということになるのか-」
「いや、おまえはいるさ。博雅がいなくなるのだ」
「博雅はおれだ。博雅がいなくなれば、おれもいなくなるのではないのか」
肯定するでも否定するでもなく、晴明は小さく首を振った。
「眼に見えぬものがある。その眼に見えぬものさえ、名という呪で縛ることができる」
「ほう」
「男が女を愛しいと思う。女が男を愛しいと想う。その気持ちに名をつけて呪れば恋-」
以上は
名前や肩書が人の考え方や行動を縛ることに陰陽師 を読んで気付いた
http://shirousagi.hatenablog.jp/entry/onmyoji/
からの孫引き。
この話が面白いのは、そのお話の中でのファンタジー な『設定』としても読めるし、
民俗学 というか、宗教学的な意味としても読めるし、
あとは俗世間の、浮世のことわりとしても読めるんだよね。
少なくとも、自分はそう呼んだ。
「陰陽師 」でも「MAO」 でも、呪いは実際に存在している世界だ。その世界で「呪い」とはどういうふうに成り立っているか、ということで見れば、安倍晴明 の語りはまことにSF設定の説明のようなものである。
また一方、名前というものが呪術と大きく関係しているのは、民俗学 ・宗教学的にもその通りな訳で、アジアに「緯(いみな)」という習俗があり、あるいは幼名が「捨丸」「拾丸」だったり、東南アジアの一部では直訳すれば「糞まみれ」だったりして、悪魔の嫉妬を買わないようにした、なんてこともありますよね。名前(本名)を教えてくれというのは、それだけで求婚を意味したりなんかも。
籠こもよ み籠こ持ち ふくしもよ みぶくし持ち この岡に 菜摘ます児
家告いへのらな 名告ののらさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我こそ居をれ
しきなべて 我こそいませ 我こそば 告ののらめ 家をも名をも
万葉集 1-1
https://ncode.syosetu.com/n1146fh/1/
そして、普通の処世訓的な意味というか、実際上も、「言葉は呪い」というのは早々間違いではない。
というか、上の「MAO」 の話もそう深刻な話ってわけじゃなく、女性主人公が別の女性から、そのMAOという少年への思いを聞かされるのだが、それは要はMAOとその女性があまり近づかないようにとの牽制である、という話。
A君と仲良くなりそうなB子さんをけん制するために、先んじてC子さんがB子さんに「わたし、A君が好きなの」という…ぐらいの話だ。だから、その「呪い」の解決方法が「気にしないこと」で済む(笑)。
一方で自分としては…やや陰陽師 寄りの話だが…これまでも存在していたが、特定の名称が与えられなかったものを「セクハラ」「モラハラ 」「アルハラ 」などなどと名称が与えられ、概念が生まれたために、それが社会問題となり、解決に大きく踏みだしたりしたことを思い出すわけです。
社会問題じゃなくても、「共感的羞恥」という言葉で、ドラマやアニメで誰かが笑われたり恥をかくと、自分もいたたまれなくなる…という現象が「概念」として発見されたりしたことがあった。
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あるいは「サークルクラッシャー 」「オタサーの姫 」でもよろしい。
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これらは、みな安倍晴明 的にいえば『呪(しゅ)』よ。
2023年追記
カレーにもシチューにも豚汁にもなり得る、玉ねぎジャガイモニンジンを煮込んだ「あれ」の名前は…?という例。
togetter.com
子路 が曰わく、衛の君、子を持ちて政を為さば、子将(まさ)に奚(なに)をか先きにせん。子の曰わく、必ずや名を正さんか。子路 が曰わく、是れ有るかな、子の迂(う)なるや。奚(なん)ぞ其れ正さん。子の曰わく、野なるかな、由や。君子は其の知らざる所に於いては、
蓋闕如(かつけつじょ)たり。名正しからざれば則ち言順(したが)わず、言順わざれば則ち事成らず……
子路 が言った。「衛の君が、先生をお迎えして政治を為すなら、先生はまず何を第一にしますか」
先生がおっしゃった。「まず必ず物の名前を正すことから始めるだろう」
子路 が言った。「これですからね。先生の遠回りなことは。どうして名前なんか正すのです」
先生がおっしゃった。「だからお前はがさつだというんだ由よ。君子は自分の知らないことについては口をつつしむものだ。名前が正しくなければ言葉が順当でなくなり、言葉が順当でなくなれば物事が成立しない…
rongo.roudokus.com
……ロミオと言う名をおすてになって。
それがだめなら、私を愛すると誓言して、
そうすれば私もキャピュレットの名をすてます。
私の敵といっても、それはあなたのお名前だけ、
モンタギューの名をすてても、あなたはあなた。
モンテギューってなに?手でもない足でもない、
顔でもない、人間のからだのなかの
どの部分でもない、だから別のお名前に。
名前ってなに?バラと呼んでいる花を
別の名前にしてみても美しい香りはそのまま。
O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo?
Deny thy father and refuse thy name;
Or, if thou wilt not, be but sworn my love,
And I'll no longer be a Capulet.
What's in a name? that which we call a rose
By any other name would smell as sweet;
marieantoinette.himegimi.jp
これにてひとまずおしまい。
夢枕獏 「陰陽師 」は別のところで「桜のように、俺は俺らしくありたい」というやはり哲学的で詩的なひとことがあり、これは岡野氏とは別の方(睦月ムンク 氏)がコミカライズしている。
てか、それを自分がまた例によって記事にしている(笑)
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