社説集
(社説)高市政権と憲法 「改憲ありき」を繰り返すのか
2026年5月3日 5時00分
list
写真・図版
自民党大会であいさつをする高市早苗首相(自民党総裁)。憲法改正に強い意欲を示した=2026年4月12日、東京都港区、金居達朗撮影
[PR]
高市早苗首相が憲法改正に強い意欲を示している。先の衆院選で自民は、衆院では単独で改憲を発議できる3分の2超の議席を得た。連立相手が改憲に積極的な日本維新の会に代わったことも大きい。
だが、国民の間に改憲を求める機運が高まっているようには見えない。首相は「国論を二分」する政策の推進を掲げるが、国の最高法規である憲法の改正には、より広範な国民の合意が欠かせない。
憲法とはそもそも、国民の側から国家権力を縛るものだ。縛られる側の行政府の長が、「改憲ありき」で突き進むことはあってはならない。
■安倍路線の踏襲では
首相は4月の自民党大会で「時は来た。改正の発議にめどが立った状態で来年の党大会を迎えたい」と、約1年後までの発議をめざす考えを示した。衆院憲法審査会では、自民や維新などが条文起草委員会の設置を求めた。
首相が「政治の師」と仰ぐ安倍晋三元首相は7年8カ月に及ぶ第2次政権の期間中、改憲の旗を振り続けた。
最初に掲げたのが憲法改正手続きを定めた96条の改正。発議に必要な賛成を、衆参各院の3分の2以上から過半数に引き下げることを提唱したが、批判を受けて軌道修正。(1)9条への自衛隊明記(2)緊急事態対応(3)教育の充実(4)参院選の合区解消を打ち出した。この4項目は今も自民の公約として引き継がれている。
世論の理解が得やすいテーマで、とにかく一度、改憲を実現しようという手法は「お試し改憲」と批判された。安倍氏は集団的自衛権の行使に一部道を開く「解釈改憲」は行ったが、条文そのものには結局手をつけられなかった。
安倍氏ができなかった改憲を自分の手でと、首相は考えているのかもしれない。それこそ改憲が自己目的化しているというほかない。
首相は常々、「国の理想の姿を物語るものが憲法だ」と語る。自民が野党時代の2012年にまとめた「改正草案」は、天皇を「元首」と位置づけ、「国防軍」の保持や国旗・国歌を明記。表現の自由への制限を盛り込むなど、個人より国家の秩序を重視する。これが自民の理想だとしたら、現行憲法の理念の大きな改変ではないか。
■「立憲主義」の不在
憲法は人々の自由や権利を守るために、権力に制限を課すものだ。この立憲主義の基本を、首相や自民が理解し、尊重しているとは思えない。
それを如実に示すのが、衆院憲法審で議論が先行する、大規模な災害やテロといった緊急事態への対応をめぐる自民の主張だ。
なかでも強く懸念されるのが、首相が緊急事態を宣言したら、国会を通さず、内閣が法律と同じ効力を持つ「緊急政令」を出せるという提案だ。政府への権限集中が人権侵害や統治のゆがみを招く恐れをあまりに軽視している。
自民のめざす本丸が9条改正にあることは間違いない。維新は単なる自衛隊の明記ではなく、「国防軍」としての位置付けや、戦力の不保持をうたった2項の削除、集団的自衛権の全面的な行使容認を求めている。
野党には9条改正への反対も多い。日本の平和主義の根幹を、これ以上ゆるがせにしない議論こそが必要だ。
衆院憲法審では「中山方式」という議論の進め方が語り継がれている。憲法審の前身で、00年に設置された衆院憲法調査会の会長を務めるなど、国会の憲法論議を支えた自民の故中山太郎元外相にちなんだものだ。
■中山方式という知恵
中山氏は、憲法は民主主義の土俵であり、それをつくる議論に与野党の別はなく、「国民のもの」という認識を示した。政治的な駆け引きをからめない。譲り合いの精神で歩み寄る。少数会派の声も尊重する。こうした原則を立て、公平な議事と丁寧な合意形成に尽力した。
9条改正が持論だった中山氏が、これを貫いたのは、特定の政党や勢力に有利なルールをつくれば、国の行く先を誤るとの思いからだ。
与党は参院では過半数の議席をもたない。衆院での優勢をテコに強引に議論を運ぶなら、先人の知恵や努力を無にすることになろう。
改憲を発議し、国民投票を行うための条件も整っていない。21年に行われた国民投票法の改正では、インターネットなどによる有料広告の制限などの措置を、3年をめどに講ずると定められたが、いまだに手つかずだ。
その後、ショート動画を含むSNSの利用は飛躍的に拡大し、誤・偽情報の拡散や外国などによる影響力工作への対応など、「ネットと選挙」をめぐる深刻な課題が浮かび上がっている。通常の選挙より運動期間が長い国民投票では、影響はより大きくなる。
衆院憲法審は昨年、超党派の議員団を欧州に派遣。国民投票におけるSNSの偽情報対策などについて、各国の動向を探った。公平で公正な投票のために欠かせない国民投票の環境整備を、後回しにするわけにはいかない。
www.asahi.com
憲法記念日 世界の激動踏まえ議論深めよ
2026/05/03 05:00
保存して後で読む
シェアする
偽情報の氾濫への対応も急務だ
多国間協調や自由貿易といった戦後の国際秩序は、崩壊寸前の状態にある。平和を唱えているだけでは、自国の安全を守れない時代となった。
[PR]
最高法規を時代に合ったものとし、新たな課題に対処していくことが政治の責務である。
憲法は施行から79年を迎えた。戦後の日本は平和を享受し、経済発展を遂げることに成功した。その礎となったのが平和憲法であることは、言うまでもない。
国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という普遍的な原則は、今後も守っていく必要がある。
具体的条文が欠かせぬ
一方、現行憲法が時代の変化に対応できていないのも事実だ。
与野党はまず、憲法改正の具体的な条文案を策定し、それを基に議論すべきだ。そうすれば改正が必要な論点が明確になろう。
憲法前文は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し」、日本の安全を守ると定めている。だが、世界の平和に責任を持つべき国連安全保障理事会の、常任理事国が今や平和を脅かしている。
ロシアによるウクライナ侵略は4年を超えた。米国も国際法を 蔑 ないがし ろにし、イランを攻撃した。中国は経済と軍事力を武器に周辺への威圧を強めている。
他国を信頼する、という前文の理念は、もはや通用しない。
安全保障を米国に頼り、自衛隊は最小限度の実力があればよい、という時代は終わった。アジアの安全を守るためにも、日本はどんな役割を果たすべきか、という観点からの論議が欠かせない。
自民党は、9条を維持し、別途「9条の2」を設けて自衛隊を明記する案を掲げている。
一方、日本維新の会や国民民主党は、自衛隊を明記するだけでは自衛権の行使に制約が残りかねないとして、9条2項の「戦力を保持しない」という規定の削除や、自衛権の明記を求めている。
現在、9条の改正論議は下火になっているが、後回しにしてはならない課題だ。
近年、国政選挙の1票の格差を巡る訴訟で、司法は法の下の平等を投票価値の平等に読み替え、国会に格差是正を求めてきた。
司法の要請を踏まえ、与野党は衆院では地方の選挙区を削減した。参院では「鳥取・島根」「徳島・高知」を合区した。
地方の声軽視するのか
地方の人口流出が続けば、今後も地方選出議員を減らさざるを得ない。人口比に応じて選挙区を定めることが本当に正しいのか。
参院憲法審査会は、憲法で参院議員を「地方代表」と位置づけて、合区を解消する案を議論している。各県から少なくとも1人の議員を選出する根拠を作り、人口を基準にした投票価値の平等を問われにくくする狙いがある。
地方を重視する観点からも、参院議員を地方代表にするのは一案だ。過疎地を含め、地域の一体性を増すことにもなろう。
憲法は、選挙に関する事項は「法律でこれを定める」とし、国会の裁量に委ねている。司法が選挙区の調整について合憲・違憲の視点から、国会に注文をつけることには違和感を拭えない。
一方、衆院憲法審査会が当面、最大の議題としているのは緊急事態条項の創設だ。東日本大震災の際は被災地で知事選などを行えず、特例法で任期を延ばした。国会議員の任期は憲法に記されている。有事の際の延長を可能にする改憲は理解できる。
デジタル社会への対応も急務だ。SNS上では偽・誤情報が氾濫し、選挙結果に影響を与えている。SNSを規制することに対しては、表現の自由を侵害する恐れがあるとして慎重意見もある。
表現の自由が保障されているのは、国民の自由な議論を通じて民意を形成することが重要で、民主主義に不可欠だからだ。民意の形成は、個人が多様な情報に触れて考えをまとめられる健全な環境があって、初めて成り立つ。
想定外のデジタル社会
だがSNSでは、扇情的な情報や、個々の利用者の好みなどに応じた投稿が優先して表示される。このため投稿内容の真偽は二の次となる。また、利用者は自分と似た意見の投稿に囲まれがちだ。
こうした仕組みは、人々が多様な価値観に触れる機会を奪い、民意の形成を 歪 ゆが めかねない。
そもそも表現の自由など各種の権利は、「 濫用 らんよう してはならない」とされ、「公共の福祉」の制約を受けることが現行憲法でも明記されている。表現の自由を理由に偽・誤情報などを放置して民主主義が 毀損 きそん されては、本末転倒だ。
www.yomiuri.co.jp
公布80年の憲法論議 主権者として向き合おう
オピニオン
朝刊オピニオン面
毎日新聞
2026/5/3 東京朝刊
1716文字
改正を巡る議論が行われている衆院憲法審査会=国会内で2026年4月23日午前10時8分、平田明浩撮影
「時は来た」「行うべきは決断のための議論だ」。高市早苗首相は強い言葉で国会の憲法改正論議を後押ししている。主権者たる国民はどう向き合うべきか。憲法記念日に考えたい。
現行憲法は11月に公布から80年を迎える。基本的人権を包括的に保障する規定は先進的だったが、現代の感覚からすれば当然のことにもみえる。日本初の女性弁護士をモデルにしたNHKの連続テレビ小説「虎に翼」で脚本を担当した吉田恵里香さんは10代の頃、そんな印象を抱いていたという。
Advertisement
執筆が決まり憲法全文を読み直した。最も心に響いたのが、法の下の平等を定めた14条だった。過去の作品で性的マイノリティーを主人公にしたこともあり、さまざまな人が14条を支えに人権を守ろうと闘っていると痛感した。性別や身分などによる差別の禁止は番組を通じたテーマとなった。
規範軽んじる政治権力
自民党大会で演説する高市早苗首相。改憲に強い意欲を示した=東京都港区で2026年4月12日午前11時51分、中川祐一撮影
現行憲法の下、個人の尊重や幸福追求権を定めた13条を足がかりに、プライバシー権など「新しい人権」が確立した。14条などを根拠に、障害者らを差別してきた旧優生保護法を違憲と断じる判決も出ている。自由や平等は当たり前のように見えるが、不合理を正す意思がなければ、憲法の理念を守り、発展させることはできない。
一方で、政治権力の側には最高法規を軽んじるかのような振る舞いが目立つ。高市首相は1月、天皇の国事行為を定めた7条を根拠に衆院を解散した。政権の都合で選挙を行うことには、解散権の乱用との批判がつきまとう。予算審議を短期間で切り上げようとした姿勢は、国会に監視機能を与えた財政民主主義をないがしろにするものだ。
安倍晋三政権下の2014年、政府は閣議決定によって集団的自衛権行使の一部容認に踏み切った。改憲に相当する方針転換にもかかわらず、主権者が国民投票で意思表示をする機会はなかった。
そもそも日本国憲法は条文が少なく、文章も抽象的で解釈の余地が大きい。統治の規定は具体的な仕組みを法律に委ねている。改正の要件が厳しいことも相まって、議員定数の変更など他国では憲法改正が必要な問題でも、関連法の改正で対応してきた。
改憲や戦争に反対の声を上げるデモの参加者たち=国会前で2026年4月8日午後8時15分、後藤由耶撮影
社会や国際情勢の変化に即した実利的な手法ではある。一方で、十分な国民的議論と合意形成がないまま憲法秩序が変質し、既成事実化した側面は否めない。
自民党は先の衆院選で得た圧倒的な議席数を背景に、9条に自衛隊を明記する改正に動こうとしている。連立を組む日本維新の会は、戦力不保持を定めた2項の削除と国防軍の設置を掲げる。
憲法改正で最終的に判断を迫られるのは国民である。安全保障環境が変化する中での平和主義のあり方について、主権者が認識を深める場がもっとあっていい。
市民参加の仕組み必要
アイルランドは15年、世界で初めて国民投票を通じた改憲によって同性婚を認めた。その試みに目を向けたい。
抽選で選ばれた市民66人と議員ら計100人の「憲法会議」を12年に設置し、議論を重ねた。国民の多くをカトリック教徒が占める保守的な土壌だからこそ、市民が中心になって丁寧に合意形成を進め、最高法規に落とし込むべきだと判断した。
各国の憲法に詳しい横大道(よこだいどう)聡慶応大教授は「改正する場合でも、国会発議の前に国民参加の議論の場を設けるなど、理解を深める手立てが必要だ。疑問点があれば熟議によって正し、最終的に国民投票で賛否を問うべきではないか」と提言する。
自民が衆院で3分の2を超える議席を握る中、平和主義の後退を懸念するデモが広がりを見せている。それを「ごっこ遊び」と冷笑する与党議員がいる。多様な民意をくみ取るのが政治の役割であることを忘れてもらっては困る。
世界を見渡せば、国際法に反して平和を破壊する蛮行が相次ぐ。貧困や差別は解消されず、ネットの言論が分断を深める新たな危機に直面している。平和の維持や暮らしの安定、民主主義を約束した憲法の規範力が試される。
変化への対応が求められる点は丁寧な議論で方向性を示し、守るべき理念は堅持する。権利や自由を守るための不断の努力が、国民に期待されている。憲法論議を政治家任せにすべきではない。主権者としての自覚が問われている。
【前の記事】
mainichi.jp
社説〉憲法記念日に考える 権力縛る原点に返ろう
2026年5月3日 07時55分
3
あとで読む
きょう3日は憲法記念日です。79年前の1947(昭和22)年に新しい憲法が施行された日です。新憲法はそのちょうど半年前の46年11月に公布されていますので、今年は憲法公布80年の節目の年ということになります。
憲法記念日には例年、改正に賛成・反対それぞれの立場からシンポジウムや集会などが開かれています。今年がこれまでと違うのは政権を長年担ってきた自民党が改憲の発議に必要な3分の2以上の議席を、衆院で初めて単独で有する状況にあることです。
こうした政治状況を受け、自民党総裁の高市早苗首相は4月の党大会での演説で「改憲の発議にめどが立ったと言える状態で来年の党大会を迎えたい」と改憲議論の加速に意欲を示し、立党70年の新ビジョンでも、改憲の実現に向けた取り組みが「今後30年のわが国の安全保障を考える上でも、これまでになく死活的に求められている」と強調しています。
◆「理想語るもの」と自民
自民党は改憲を1955年の立党以来の党是としてきました。戦後の諸制度は占領軍に押し付けられたものという立場から、立党時の文書は「現行憲法の自主的改正をはかり、また占領諸法制を再検討し、国情に即してこれが改廃を行う」と記しています。
同党にとって占領諸法制の代表格が、戦争放棄と戦力不保持の憲法9条です。一時期を除いて国政を長期にわたり担ってきた自民党政権下では常に、9条改憲論や火力を有する自衛隊の位置付けが政治課題になってきました。
国会が改憲を発議して国民に提案するには、衆参両方の議院でそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成が必要です。自民党と日本維新の会の与党は参院では依然、少数派ですから改憲を発議できる状況にありませんが、与党は圧倒的多数を占める衆院の憲法審査会で条文起草を促すなど、改憲に前のめりになっています。
改憲をするにしても、しないにしても、そもそも憲法とは、何のためにあるのでしょうか。
自民党にとって憲法の位置付けは「国の理想を物語り、国家の新たな『背骨』となるもの」(立党70年ビジョン)というものです。高市氏も党大会で「どのような国を創り上げたいのか、その理想の姿を物語るものが憲法です」と語っています。憲法9条を変え、戦力を持つことが自民党が理想とする国の姿なのでしょう。
確かに、現行憲法には実現すべき日本のあるべき姿が書き込まれています。三大原則としている国民主権、基本的人権の尊重、平和主義などです。
同時に、憲法にはもう一つ、重要な役割があります。三大原則などを実現するために、国家権力の恣意(しい)的な発動を制約する「制限規範」としての役割です。
明治期に憲法調査のため欧米諸国に派遣された後の首相、伊藤博文は枢密院で「憲法を創設するの精神は、第一君権(天皇の権力)を制限し、第二臣民(国民)の権利を保護するにあり」と述べています。国民主権の今では政府の権力を制限する意味になります。
現行憲法が掲げる平和主義は、前文が記す「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起(おこ)ることのないやうにする」に明確に表れています。日本国内のみならず、交戦国や近隣諸国の人々におびただしい犠牲を強いた戦争への反省から、新生日本が目指す理想を書き込んだとも言えます。
◆政府に戦争起こさせぬ
その理想を実現するために、日本政府に制約を課したのが9条です。国権の発動たる戦争と武力による威嚇、武力の行使を国際紛争を解決する手段としては永久に放棄させ、戦力の保持と国の交戦権を認めないことで、政府の行為による戦争の惨禍が再び起こることを防ごうとしたのです。
振り返れば、集団的自衛権の行使を違憲としてきた歴代内閣の憲法解釈を、一内閣の独断で変更したのは安倍晋三首相当時の自民党政権です。自民党は緊急事態時に内閣が法律と同じ効力を持つ政令を制定できるとの改憲案もまとめています。いずれも、政府の権力を制約する憲法の趣旨からは大きく逸脱しています。
自民党は憲法を巡り、国の理想を物語るという一側面を際立たせることで、国家権力を縛るという最も大事な役割を軽んじようとしているとしか思えません。
憲法を論じるには、権力を縛るという原点に返ることを忘れてはならない。あらためて気づかされる今年の憲法記念日です。
www.tokyo-np.co.jp
<主張>憲法施行79年 9条の弊害を直視したい 改正実現へ条文化に着手せよ
社説
2026/5/3 05:00
緊急事態条項に関する集中討議が行われた衆院憲法審査会=4月23日、国会内(春名中撮影)
日本国憲法が施行されて79年を迎えた。
イランをめぐる中東の戦争が続いている。そこで浮き彫りになったのは、日本の生存を確保する上で現憲法が足かせとなっていることだ。日本と国民を守るため、憲法改正が急務だと強調したい。
通産官僚だった堺屋太一氏は昭和50年、小説「油断!」を世に問うた。ホルムズ海峡封鎖が当時の日本に与える影響に関し「石油輸入が平常の三割になれば、二百日間で三百万人の生命と財産の七割が失われるでしょう」と登場人物に語らせた。
「油断!」の危機眼前に
今、ホルムズ海峡の通航をイランが阻んでいる。日本は原油輸入の9割を中東に依存し、大部分が同海峡を通ってきた。別ルートの調達や原油国家備蓄の段階的放出でしのいでいるが、このまま推移すれば、日本は年明けにも深刻なエネルギー危機に直面する。
ホルムズ海峡封鎖は米国・イスラエルとイランの間の懸案だが、それ以上に日本自身の生存がかかわる問題だ。あらゆる手立てを尽くし海峡の通航を取り戻さなければならない。
米イランの交渉で封鎖が終われば幸いだ。だが、そうならなければどうするのか。
3月の日米首脳会談に先立ち、高市早苗首相は国家安全保障局(NSS)、外務・防衛両省の幹部らとホルムズ海峡をめぐる自衛隊派遣について検討した。機雷除去の掃海艇、「調査・研究」目的の護衛艦・哨戒機の派遣の2案が俎上(そじょう)に載ったがどちらも憲法第9条が壁となって停戦前の派遣はできない―という結論になったという。
9条の政府解釈で禁じられている「自衛のための必要最小限度を超える武力行使」や「海外での武力行使」に当たるという理由で、だ。
普通の民主主義国では、どのタイミングで軍を派遣するかは政府がさまざまな状況を踏まえて政治判断する。ところが日本は憲法が判断を妨げる。
このように自衛隊派遣の選択肢を端(はな)から阻んでいる現憲法を「平和憲法」と呼ぶとすれば大間違いだ。
停戦がないままホルムズ海峡の通航が阻まれ続けたら、日本は「油断!」が描いた状況に陥りかねない。
そのとき、憲法を理由に海上自衛隊のタンカー護衛―これは米国の戦争への是非を論じるのとは異なる―を放棄して座して死を待ったり、海軍を展開する米国や他の先進国にすがりついたりすれば、日本は蔑(さげす)まれ、必要な量の石油は入ってこないだろう。台湾有事を抑止するため不可欠な日米同盟の結束も吹き飛ぶ。高市政権や各党は危機感が足りないのではないか。
自民党は憲法への自衛隊明記を唱えている。左傾化した憲法学者の自衛隊違憲論を根絶し、明記を機に義務教育で抑止といった防衛力の役割を教えることで日本の安保論議の底上げを図れる意義はある。
議員身分ばかり大切か
ただし自衛隊明記は、ホルムズ海峡封鎖が突き付ける危機の克服に寄与しない。9条2項削除か、「芦田修正」に基づく憲法解釈変更が結局は必要だ。
緊急事態条項創設も極めて重要である。南海トラフ巨大地震や首都直下地震、富士山噴火などの災害へ備えたい。台湾有事という人災から国民を守ることも欠かせない。
選挙が困難な事態での国会議員の任期延長だけではだめである。必要なのは、緊急時に行政府(内閣)へ一時的に権力を集め、緊急政令などで国民と憲法秩序を守らせることだ。この国家緊急権は国連が採択した国際人権規約(B規約)が認める世界の常識だ。
憲法第54条の「参院の緊急集会」で乗り切ろうという意見があるが、これでは議員の衆知を集められない。また、そもそも国会議員が集まれない程の緊急事態ではどうするつもりか。
参院選で、鳥取・島根両県などを1つの選挙区とするような合区の解消に重点を置く議論がある。論点として否定しないが人口減少が急速に進んでいる。「47都道府県」が維持可能かどうかから論じたほうがよい。
国会議員の任期延長や合区解消という議員の身分を守る改正点ばかりを前面に出して、国民の理解を得られるだろうか。
日本と国民に資する9条関連と緊急事態条項創設の改正が必要だ。衆参各院の憲法審査会は条文化に着手すべきだ。
www.sankei.com