INVISIBLE Dojo. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

慰安婦支援団体の醜聞で「下村満子氏の朝生発言」記事が再度読まれてる…/だから「朝生」は過去アーカイブ作れやあ、と


【記録する者たち】※「記録する者たち」は準タグです。この言葉でブログ内を検索すると関連記事が読めます


そしたらアンタ、これが読まれとんのんよ。

下村満子元理事の「アジア女性基金」体験談を文字起こししました(朝まで生テレビ
(開始54分40秒)
あの、わたくし、さきほどから…アジア女性基金やって 女性の、慰安婦の人権人権って、韓国のかたがおっしゃる。挺対協が窓口になって仰ってるけど、私の経験では大変申し訳ないですけど。これは怒られる覚悟でいうけど市民運動ですよね この人たちはインテリで たいへん社会的地位もあり、権力もあり、慰安婦の方を本当に思ってなんかいずに、慰安婦のかた…わたくしはこの…これ、体験です。これは台湾もそうですけど、それをひとつの盾にとって、まあ反日運動、に利用してる。
 
つまりなぜかというと、じかに聞くと、このかたたち、アジア女性基金のお金をいただきたい。それは彼女たちにとっても高齢になって、貧しくて、お金に色はついてないんだから、大変ありがたく、ほしいわけですよ。
それを挺対協とかなんかが、「もらうな」と。もらったらバッシ…(後略)

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スゲーなぁ思ったのは、書いた本人が忘れてたわ!!ということ。どういう経路で引っ張り出してきたんですか皆さん。どっかで自動の関連付けあった?

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はてなブックマーク経由で「下村満子の過去発言」にアクセス増える

ま、それはいいんですよ。この発言自体も、それをどう評価するかも、またそれぞれあっていいだろう。
この機会に、この前の話をまた発展させ再論したいんです。


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この話が読まれたから冒頭に置くけど、もっと端的な記事もある。
適宜引用する

オウム処刑で過去の「朝生」が注目…そこから「テレビ番組は現在、研究者すらアーカイブが使えないよ」問題を論ず【記録する者たち】
m-dojo.hatenadiary.com


もそも朝生はやはり80年代末〜90年代半ばが全盛期であって、それ以降は当時の熱量を保っているわけではない。ただしもちろん、時代時代の重要な論点や風潮、空気感などは自ずから蓄積されている。

ただ、このyoutubeも、ずっとここでこうやって見られるわけではないのだろうね。
そして、一般の人も、専門的にいろいろなことを研究している専門家も、見たいと思った過去の「朝まで生テレビ」を公的に見る手段は、おそらく全く無いはずだ。

そのことに関し、再度注目していただきたいと思って、過去のツイートのツリーを紹介する。

※いくつか間にツイートがあるんだけど、略する。リンク先に飛んでもらえれば読める。

・・・・・・・ということで、今回、「過去の朝生が誘因力のあるコンテンツである(少なくとも資料的・学問的価値がある)」ことはこの上なく証明されたと思う。
他に無いから、文字起こししたうちのブログ過去記事に来たのであろうってわけで、たとえば1回150円で視聴可能な有料アーカイブがあったら、200人ぐらいは今回の騒動で購入したんじゃないかな。
そしたら3万円だ。すでに終わった討論番組が生む収入としては悪くないんじゃないかね。

今回の騒動を機会に、再度再度
『「朝まで生テレビ!」の過去映像を、何かしら見る方法は存在すべきである』という点を、お考えいただきた。

漫画家・万乗大智先生がガンをtwitterで報告。快癒を願う


1969年1月28日うまれ。ことしで…まだ51歳。
この方も、少年サンデーが一番面白かったと個人的に思う90年代、ゴルフ漫画ダンドー!」で紙面を彩った「サンデー・ナインティーズ・マフィア」のひとりだが、それ以上にtwitterでも存在感あったし(笑)、またガンダムの外伝漫画を幾つか手掛け、特に全1巻の中編「黒衣の狩人」は、主人公の騎士道精神と、そのラストシーンのせつなさで忘れがたいものがある。


ガンダムはどうも仕事の枠を超えて好きだったらしく、さまざまな印象的かつ軽妙なツイートを残していて、まとめなどにもなっている。また、シロートの感想や反応に、丁寧にリプを返してくれるかたでもあった。

togetter.com

togetter.com

万乗大智先生。フランス語翻訳版で「ギリシア神話」の増刷が決定


ガンダムホワイトベースにいる「看護兵のマサキさん」が素敵!と、万乗大智先生が熱く語る→密かなファンが多数 編集可能


酷すぎる! 万乗大智先生(@jgdjgdjgd)のファミレスでの災難 編集可能 アプリで作成


万乗大智先生「ガンダム」の一場面からホームズ張りの推理をしてしまう(しかも反応に、丁寧にリプをしまくる) 編集可能


「ぞんざいでいい加減な、キャラの名前といえば彼ら」…万乗大智先生が挙げた「マクロス」3人組の命名があまりにヒドイ 編集可能


万乗大智先生があだち充先生に「なんでかっちゃん殺したんすか!?」と切り出したその後のやり取りが面白い


高橋留美子青山剛昌2億冊突破パーティ」で漏れ伝わる人間模様がいろいろ楽しい/高橋氏新連載・青山氏連載再開


電子書籍と漫画」の話もろもろ・技法編~「見開き」を電書はどう処理する?漫画の技法や演出自体が変化する? 編集可能


万乗大智先生「新人漫画家と担当の戦い大体の流れ」…この物語は事実を元に制作されております


思い出すたび、今だに涙があふれて心が痛む


親が子どもの命を救った瞬間を表現した漫画が「あるある!」と話題に


万乗大智氏の新作ガンダム漫画および『あんころ』の話


北崎先生、七月先生、万乗先生による久米田先生欠席裁判?


本日、26日が、詳しい病状が分かる日らしい。

まだ、ガンダム外伝「アグレッサー」は連載中。
websunday.net

これを完結させる義務があるし、マフィアのほぼ同期だった久米田康治への報復もまだ済んでおるまい(笑)※まとめ参照

病気ヲ克服シスミヤカニ復帰セヨ、と命じて…おく。

【メモ】近代立憲君主列伝。占領軍のナチスの敬礼を無視したデンマーク王、「ベルギーは道ではなく国だ」の名言を残したベルギー王など

立憲君主制の現在: 日本人は「象徴天皇」を維持できるか (新潮選書)

立憲君主制の現在: 日本人は「象徴天皇」を維持できるか (新潮選書)

  • 作者:君塚 直隆
  • 発売日: 2018/02/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


この本自体は、もとっと幅広く制度や人物を紹介している(アジアの君主も紹介しているし、イギリスは清教徒革命の時代の記述もある)けど、俺用私的メモとして、以下の人物の記述をの残しておく
君主なら「列伝」じゃなく「本紀」じゃねーの?とかはおいとけ。

立憲君主列伝

イギリスのジョージ5世

「幸先の悪い新世紀」と呼ばれた1901年1月のヴィクトリア女王崩御の後を継いだエドワード7世の治世は9年しか続かなかった。7世崩御を受けて、1910年に英国王となったジョージ5世は45歳での即位であり、元々は王位継承権1位でもない、生粋の軍人であった(学歴もオックスフォードやケンブリッジではなく王立海軍兵学校卒である)。
ただ、第1次世界対戦に際し極めて謹厳実直で国民の模範になるような質素倹約、慰問や激励などを精力的に行い強い支持を得る。1924年、初の労働党政権が誕生した時も日記には「おばあさま(ヴィクトリア女王)が生きていたらなんと言うだろう」と率直な驚きを表明したものの、中立公平に新政権をサポートしスムーズな政権交代をせしめた。
その少し前、極東から軍艦に乗って訪れた皇太子裕仁、後の昭和天皇を極めて親身に歓迎し、昭和天皇立憲君主の模範としてジョージ5世を敬愛したという。

デンマークのクリスチャン10世

第二次世界対戦当時の国王。1940年4月9日、コペンハーゲンアマリエンボー宮殿の窓をスタウニング首相が叩いた。 ドイツ軍の奇襲を知らせるために。
宮殿を取り囲んだドイツ軍と国王の近衛兵は戦闘に入ったものの、16人の戦死者を出し降伏。デンマークナチスの「保護下」に入った。
この占領翌日から老国王は毎日コペンハーゲンを馬で散策した。それは無言の抵抗運動と国民からはみなされていた。なぜならドイツ兵が彼に敬礼しても国王は一切無視し、普通に挨拶する一般市民にはいつも通り優しく言葉をかけたのだから。
1942年9月、国王の72歳の誕生日にベルリンからヒトラー総統直々の電報が届いた。これに対して国王の返礼は「お言葉に感謝する。クリスチャン国王」という無味乾燥な返信電報でありヒトラーは激怒したという。
デンマーク在住ユダヤ人に「ダビデの星」をつけさせるという要求にも断固反対し、ドイツ占領下でデンマークユダヤ人は98%がホロコーストを逃れたと言う 。1945年5月デンマークが連合軍により解放されると5月9日国王は王妃と共に馬車でコペンハーゲンの大通りを行進し、議会の開会式に向かった。

ノルウェーのホーコン国王

こちらも1940年4月9日…デンマークと同じ日にドイツ軍の進撃を受ける。 国王と皇太子は北に逃れ交戦するが長くは持ちこたえられず2ヶ月後の6月7日にイギリスに亡命し、「自由ノルウェー」という抵抗組織を立ち上げる。これはその後2016年に映画となっている。
ノルウェーの現国王であるハーラル5世ナチスの侵略時に3歳だった。
日本の上皇陛下は皇太子時代、最初のノルウェー訪問時にホーコン7世と直接の面識がある。そのことを2005年の訪問の時に振りかえったスピーチは非常に感慨深いものとなったという。


ベルギーのアルベール一世

アフリカのコンゴを自分の私的領土とし、富を得るために多くの人命を奪ったことで知られるレオポルド2世の後を継いで即位した(ただし息子ではなく甥である)。
即位5年後の1914年8月2日、ドイツ軍(これはナチスでなく第1次世界大戦の帝政ドイツである)が隣国ルクセンブルグを奇襲した。そして同日夜、ドイツ政府はベルギー政府に通達を行った。
「ベルギー領の、軍通過を許可してくれれば一切の危害を加えない」
…逆に言えば認めなければ敵に回るということである。
これを受けた閣議で国王が言った言葉が歴史に残る。
「ベルギーは国だ。道ではない」
この徹底抗戦は最終的には継続できず、国王は亡命政権をフランスに樹立することになるのだが一時はドイツ軍も撤退し、トータルで言えば彼らの計画が2日遅れたと言う。その間にフランスとイギリスが準備を整えることができ、第1次世界大戦の結果を左右する重要な出来事だと言われている。
ただしその後、1934年に事故死したアルベール一世の後を継いだレオポルト3世は、今度は第二次大戦において、ナチスに抵抗した他の立憲君主とは異なりドイツ軍との徹底抗戦を避け、全面降伏し幽閉生活を送る。 正しかったか間違ってたかはさておき、国王制度は維持されたものの、1951年に退位することとなった。

ヴィンランド・サガ「剣なしの平和(は可能か?)」が大テーマに。「ヒストリエ」は安定の下書き掲載(笑)

「VH砲」と自分は勝手に呼んでいるが、アフタヌーンのみならず、日本漫画界でトップを走っている2大歴史漫画、幸村誠の「ヴィンランド・サガ」と「ヒストリエ」が、本日発売の最新号はアベック掲載された(滅多にない)。


で、「ヒストリエ」は、もう読者が慣れた下書き掲載だ(笑)

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ヒストリエ」堂々の下書き掲載(アフタヌーン2020年7月号)
慣れさせたもん勝ち、という点では、小林まこと先生の休載と変わらんな(笑)

こちらについては以上。

ヒストリエ(11) (アフタヌーンKC)

ヒストリエ(11) (アフタヌーンKC)

  • 作者:岩明 均
  • 発売日: 2019/07/23
  • メディア: コミック



ヴィンランド・サガ「開拓地に剣(武器)を持っていかないのは不合理ではないか」と異議があり…


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ヴィンランド・サガ 武器なしでの新国家は可能か

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ヴィンランドサガ 武器なしでの新国家は可能か(アフタヌーン2020年7月号)
※ちなみに、ボウガンその他は、狩猟などに必要という事で持ち込みOK。武器「にしか使えない」、象徴的意味としての剣を禁止する、という話です。


なかなかに重要と思い、力を込めて紹介しているのは、主人公トルフィンに猛然と異議を唱えるこの男の主張は、かなりの部分で理にかなっている話だからです。国際政治学的に言えば、ほぼ満点だし、ディベートとして捉えれば明確にトルフィンの負けである。


しかし、ここまで20巻以上で積み重ねていた物語で分かるように、トルフィンのこの建国のポリシーは論理や理屈を超えた信念だ、ということです。
だからこそ、どんなに相手の論理が正しいと認めても、揺るがない。

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ヴィンランドサガ 武器なしでの新国家は可能か(アフタヌーン2020年7月号)

ではそれは、一種のイデオロギー実験国家ではないか?宗教的実験国家ではないか?と、この賢明な反対者は弱点を突く。
モルモン教ユタ州。新しい村。キブツヤマギシ会。そして文革ポルポト。もっと穏やかな話としても、禁酒法アメリカ・・・・・・・。

人間や政治の理に反した、実験的なイデオロギーに戻づく国家や共同体が、ある意味でエゴイズムむき出しの国家より大きな災禍をもたらすこともある。


で、そういう議論をした上で、この反対討論者は物語から退場する、そんな捨てキャラだと先月号のヒキでは予測していたのだが…

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ヴィンランドサガ 武器なしでの新国家は可能か(アフタヌーン2020年7月号)

どうも、一種の「防衛力強化をマニフェストに掲げた非公然野党」として、これからも話に関わってきそうなのだ。これ、どうなる???


作者の「創作秘話」も併せて読むと、さらに興味深い
togetter.com


ヴィンランド・サガ(23) (アフタヌーンKC)

ヴィンランド・サガ(23) (アフタヌーンKC)

  • 作者:幸村 誠
  • 発売日: 2019/11/22
  • メディア: コミック


ちなみに、こんなふうに主人公と国家の在り方を討論し、しかもどう考えても正論だろうと言う形で主人公に圧倒する漫画作品として、自分はとみ新蔵の「柳生廉也武芸帖」2巻の、種子島をめぐる挿話を思い出したのでした。



※ツイートで「連也」となっているのは誤字

鮫島浩氏が緊急事態宣言を批判『雇用を減らし、高校生の夢の舞台を奪った』/青木理氏もTVで

twitter.com

そうかなあ。

24日放送の「サンデ―モーニング」でも、青木理氏がちょっろっとこの話を語っていました。
録画はしているので、めんどうじゃなかったら文字起こしか何かにしよう。
いや、ほんとに面倒になったのでツイート採取で代行する









※発令時の時のコメントもある

hochi.news
 7日放送のテレビ朝日羽鳥慎一モーニングショー」(月~金曜・前8時)では、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、安倍晋三首相(65)が緊急事態宣言発令に踏み切ることについて特集した。

 コメンテーターでジャーナリストの青木理氏(54)は「今回の宣言はかなりやめなければいけないことがドラスティックではなくて、抑制的というか象徴的な意味が強い。抑制できても罰則はないし」と話した上で「それでも主権を制限するような動きを政権がやる時に、『政府が(発令を)遅らせたじゃないか、早く、やれ!やれ!』と野党やメディアがなったのはよろしくない、健全じゃないと思います」と続けた。

緊急事態宣言は私権を制限する、
だから反対(慎重)だ、という意見は
出てくるかと思ったら出なかったな、と思ったら、解除が目の前に見えてから出てきた、という。

ジャイアント馬場、チェ・ホンマン…いわゆる「巨人症」の運動選手とは何かについてのメモ

巨人軍の巨人 馬場正平

巨人軍の巨人 馬場正平

  • 作者:広尾晃
  • 発売日: 2015/11/15
  • メディア: 単行本
国民的スター“ジャイアント馬場"の知られざる野球時代。

新潟三条での青春時代、モルモン教との出会い、難病“巨人症"との闘い、憧れの読売巨人軍入団、長嶋茂雄王貞治との交流、プロの壁、成功率1%の大手術、二軍での馬場旋風、早すぎる引退。
偉大なプロレスラー・ジャイアント馬場の「野球選手」としての実像に迫る。


という本がある。
ジャイアント馬場がプロレスラーとして活躍する前は…、考えてみればダジャレみたいだけれども「読売巨人軍」に所属し二軍で結構いい成績を収めたピッチャーであることは「プロレススーパースター列伝」「ジャイアント台風」の読者には周知の事実。しかしまぁそもそも、その両作品読んでない人がほとんどらしい。

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どえらくジャイアント馬場ってのはでっかい!/プロレススーパースター列伝より

義務教育の足りないところがよくわかる(なんでだよ)。


実は自分も「列伝読者」だった少年時代はそんな発想はなかったんだけれども、考えてみれば二軍選手であっても、天下の巨人軍でプロ野球選手として活動するというのは、その時点でアスリートとしての超エリートなのである。
そしてプロ野球というのは日本のスポーツの中で一番記録性という点で充実している。そういう記録や証言をもとに、プロ野球選手としてのジャイアント馬場を検証した本である。
先行して柳澤健「1964年のジャイアント馬場」でも、かなりのスペースをとってこのプロ野球選手(アスリートエリート)としての馬場正平を記述しているけど、逆にその本の足らざるところ、細かな事実関係を修正すると言う特質もある。

1964年のジャイアント馬場 (双葉文庫)

1964年のジャイアント馬場 (双葉文庫)

  • 作者:柳澤 健
  • 発売日: 2019/01/10
  • メディア: 文庫


ただ自分はプロ野球についてはあまり詳しくないこともあり、野球選手としての歩みの紹介より、もっと個人的に興味深い記述があった。
それは第2章「巨人の系譜」。
そもそもジャイアント馬場の大前提である2メートル9センチの長身は、通称で「巨人症」と呼ばれる脳下垂体腺腫(下垂体腺腫)によるものであることを説明し、その上でこの病気の特徴、現在の医学的な治療法、その治療法確立までの歴史、そして古今東西の著名なスポーツアスリートの中で巨人症が疑われる人たちの「系譜」をたどっているのである。

考えてみればこれもまさに「周知の事実」ではあるんだけれども、やはり少しばかり機微にわたる話なので、あまり公には語られてこなかったものだと思う。


そもそも「ジャイアント馬場」という名前に特別の意味を感じる昭和のプロレスファンももうすぐ、時代の忘れ物になる。平成の格闘技で強烈な印象を残した韓国の大巨人チェ・ホンマンも、今では覚えてる人がどれぐらいいるだろうか。

そして後述する理由で、これからこの話題はさらに知る人が少なくなっていくだろう(いいことではあるが、これまた後述するが厄介な問題もひとつある)。だからこそ、ここで総括しておきたい。


以下、かなりボリュームのある記述を箇条書き化する。

・脳下垂体腺腫は良性の腫瘍。だがなぜ腫瘍ができるかわからない。少なくても遺伝ではない。


・脳下垂体は頭蓋骨のほぼ中心、眉間から奥に向かって7センチ前後にあり、細い茎で脳からぶら下がっている。脳から垂れ下がっているから脳下垂体というのだ。


・大きさは女性の小指の先端ぐらい重さは1グラム程度。様々なホルモンを分泌するので、腫瘍の場所によって症状も様々。巨人症状もそのうちの一つである。「成長ホルモン産生腫瘍」と呼ばれる。


・発症時期が15歳以下だと身長全体が異常に伸びる。成人になってから発病すると身長は伸びないが額や顎が突き出て手足が肥大化する。以前は末端肥大症と言ったが、今はアクロメガリーと呼ばれる。病気としては巨人症状と末端肥大症は同じ病気。


原発性脳腫瘍は100万人あたり100人が発症し、その1/520人が脳下垂体腺腫、さらに1/4程度がアクロメガリーになる。男女差、国の差などはなく、確率的にいえば宝くじより低い確率だ。


・この病気では視野が欠ける症状も出てくる。ジャイアント馬場が野球で大成しなかったのはこの視野が欠ける症状が出たからでもあった(手術した後治ったかもしれない)。またそもそも成長ホルモンが徐々に悪い影響身体全体に与える。糖尿病、心筋梗塞、大腸がんなど。巨人症とは15歳以下で発症することだから平均寿命は40代であってもおかしくない。ババの61歳は長命と言える。

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ジャイアント台風」馬場の巨人軍時代の脳腫瘍手術について
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ジャイアント台風」馬場の巨人軍時代の脳腫瘍手術について

www.sukima.me



・ここが重要だが、現在治療法は確立している。様々な検査をした後手術するのだが、ジャイアント馬場が巨人時代に行った開頭手術ではなく、今は鼻から内視鏡入れて手術が可能になっている。傷も残らないし手術時間は2時間程度。まれに腫瘍が広がってる時は開頭手術もあり得るけれど。


・ただ手術をすれば症状は止まるが、その時点で伸びてしまった身長が縮んだり肥大した指先などが元に戻るわけではない。
今は小学校時代などに頭一つ飛び抜けたり特徴的な外見の症状などが出た時にすぐ検査するからそのまま大人になる子が少ない。子供の時に発症して初めて巨人症になるから、皆無であってもおかしくないのだが…一言で言えば周囲が「気付くかどうか」それがすべてである。





・巨人症と脳下垂体の関連性は1883年にフランスで発見された。それまでも、宝くじ一等以下の確率ながら、人間社会にそういった異様なほどの巨人が生まれてくることがある。そのうちさらにまれにその巨体を生かした仕事に就く人もいた。


昭和10年代に昭和10年代に出羽ヶ嶽文治郎という身長207センチ体重203kgの大巨人がいた。ラジオアナウンサーが「大男総身に知恵が回りかね」などと普通にしゃべる時代だった。その前はさらに遡ると相撲興行にはこういう巨人の土俵入り専門力士として育成し、一種の見世物、意味が違うけれど看板力士、として活躍した江戸時代のそれらの錦絵にも特有の症状が映し出されていることもある。


・この本には、巨人症の可能性がある主な力士とその成績という25人の一覧表がある。


・作家の篠田達明が唱えているのが「宮本武蔵も巨人症だったのではないか」という説。子供の頃から並外れて大きかった、顎や手足が大きかった重たい刀を2本も持って戦うにはよほどの力が必要だった…などなど。冬場武蔵の没年はジャイアント馬場と同じ61歳である。


・ちなみに身長が非常に低いいわゆる「小人症」も、脳下垂体の異常である。成長ホルモンの産生を促す信号が脳下垂体に届かなくなったため起きる現象だ。これは成長期に成長ホルモンを注射することで治療できるがかつて成長ホルモンは非常に微量しか採取できなかった(死んだ人の脳からしか取れなかった)。だが現在は遺伝子を組み替えて大腸菌から成長ホルモンを作れるためこの病気もほぼ克服された。

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低身長症の現在の治療法(「巨人軍の巨人 馬場正平」より)


・・・・・・・・・なるほど、である。

実は自分の経験で言うと、巨人症に関する知識の大半は、ブラックジャックの一挿話でしか知らなかった。

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ブラック・ジャック「デカの心臓」
そこでもジャイアント馬場を彷彿させるように、とんでもない巨体と怪力を持ちながら、心穏やかで優しい少年が「鯉の養殖を一生の仕事にしたい」と願いつつ、相撲部屋やプロレス団体からスカウトがひっきりなしに来る。だがブラックジャック先生が「病気ででっかいんだから心臓は普通の大きさだ。激しい運動すると大変なことになるぞ」と警告し…と話が続く。
www.phoenix.to
ameblo.jp

子供なんで病気のそれぞれの違い(個体差)というのがよくわからず「巨人症の人は、心臓が普通の大きさで激しくスポーツすると大変だというのならジャイアント馬場はどうなるの?」と思いつつ、その疑問はずっと調べなかった。


ちなみになぜジャイアント馬場は「巨人症」かと知っていたかと言うと、ポリコレという概念すら全く知らない亡き父親が、ジャイアント馬場を見るたび、アンドレ・ザ・ジャイアントを見るたび、チェ・ホンマンを見るたび、柔道の篠原信一を見るたび…ほぼ例外なく「こいつらは巨人症なんだよな」と、毎回のように口にしていたからであります。



治せる以上は、治療した方がいい。そのためには症状が出た時の「気づき」が最重要!!


バスケットボール界には現在も多少いるみたいだし、格闘技界でもUFCで活躍するまでに大成したアントニオ・シウバという選手がいた。(2メートル越えのオランダ選手も別にいたけど、彼はどうかなあ)。
チェ・ホンマンアントニオ・シウバも、プロ格闘家になってから、脳下垂体の手術を受けたことを覚えている。

成長ホルモンの異常で体が大きくなりその結果としてスポーツで活躍するとなると哲学的と言うか倫理学的なことを考える余地もあるのだけれど、やはり健康面での後遺症を考えると早期に発見し早期に治療を行い「巨人症の人間は一人も世界でいなくなった」とあるべきなのでしょう。

それはそれでありつつ、その運命を自分の人生の障壁とせず、自分が選んだ分野で活躍した「巨人アスリート」に、あらためての敬意を抱きたい。


補足 この本では、ジャイアント馬場の「モルモン教信仰」についても興味深かった。いかにも日本人的な…

Prologue
1章次男の末っ子
2章 「巨人」の系譜
3章 幸せな日々
4章 祈り、モルモン教との出会い
5章 短い夏
6章 巨人軍の一員になる
7章 長嶋茂雄前夜
8章 プロの壁
9章 大手術
10章 キャリアハイ
11章 挫折と転生
Epilogue
馬場正平年表(プロレスラーになるまで)
馬場正平巨人軍全戦績


これについても、いろいろ自伝とかで分かっている部分もあったが
熱心な牧師さんと出会った。
まだ物のない時代に、とくに馬場の巨体に関する服や靴などの問題でアメリカとのコネクションなどもある教会が、靴の入手などで助けてくれた。
そんな支援や牧師の人柄、集会での人間関係などに感銘を受けて、正式に洗礼を受けた(全身を川につかるのです)
教義も熱心に学んだし、集会にも積極的に出た。
だが、上京して野球選手からプロレスラーになるうち、ゆるやかに信仰を離れて、タバコ、酒、コーヒーなど、モルモン教の禁止のものをたしなむようになった。
それでもモルモン教を逆に「積極的に棄教」するという意識はなく、のちに「結婚式をモルモン教の教会で挙げたい」と、牧師に相談したりもしている。だが「急にいろいろあってね…ゴメンナサイねっ」「おおっ!恐れ入谷の…」じゃねえや(笑)
モルモン教のほうから、「結婚式を教会で挙げるとなると、再度信仰の道に立ち返り酒、たばこ、コーヒーの類をやめて、集会にも毎週出てもらうことになりますが…」となって、立ち消えになった。
それでも、好意的な関係はずっと続いた


・・・・・・・・・・・のだという。日本的な「信仰」の在り方として、ほんとうにいかにもそのへんにありそうな話であり、かつてイーデス・ハンソンが「見た目は日本人離れしているかもしれないが、馬場さんはまさに日本人の中の日本人だ!」と語ったのも、真に納得がいくのである。


補足 ブクマより

通りすがり2

追加情報:今日現在この本はキンドルのアンリミテッドにあります。

「あかん、永平寺の坊主は強い……」刑務所帰りの「人斬りタケ」が返り討ちにあうハナシ(路地の子)

上原善広「路地の子」というノンフィクション本を最近読みました。

路地の子

路地の子

  • 作者:上原 善広
  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


自身も被差別部落出身という生い立ちを、その経験や知識からいくつかの習作ノンフィクションを書いている作家が、自分の父親を主要な登場人物としてノンフィクションを書いたのがこの本だ。

食肉処理の現場で働きその後、自分の会社を持ち様々な浮き沈みを経験した…それでも世の中によく知られた人物というわけではなく、一市井人 である父親。その生涯をたどるからこそわかる、戦後史差別部落の経済史、運動史、犯罪史…として興味深いものがあった。


その中で主人公(作者の父親)の知人である、「人斬りタケ」が登場する。
このひとは
・元々被差別部落出身。 身長180 センチ、 体重90キロという、当時としてはかなり巨体の乱暴者で、元々暴くと見習いだった。

・召集されて兵隊になると通信兵となる。当時の通信機器は47kg もあり、それを背負って歩けるとの体力基準で選ばれていた。

・軍隊でも自分の出自を蔑まれると、上官にも刃物を持って脅しつけるような度胸満点の男だった。戦後の混乱期は 腹にダイナマイトを巻いて、「朝連」に殴り込みをかけるなども行い、その名を知られた

・酒癖も悪く、それもあってチンピラ3人を刺す大立ち回りを行い、網走刑務所に入り、ようやく出所した…


ここまでが前提条件です。

以下引用

……武史は自分の狂気を抑えようと出所後は路地に戻らずまずは福井県にある有名な永平寺に入門して修行しようと決めた。これは刑務所の中で常々考えていたことだった。

しかし陰湿な坊主らのイジメに遭うと坊主数人を向こうに回して大喧嘩になった。
今回ばかりはドスがなかったのと、 日頃鍛錬している坊主が相手だったため、逆に袋叩きにされて寺を追い出されてしまった。
永平寺の坊主は拳法をやっとるから強い。さすがに俺も、これには勝てんかったわ」

思い出したのがこち亀の44巻に収録「両津和尚!」の話。

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こち亀44巻 坊主は強いという話
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こち亀44巻 坊主は強いという話

いや、ギャグだと思ってたんだけどね。
本当にあるとは。
しかし、世間で極道に片足を突っ込んだような乱暴者を屈服させる、寺での陰湿ないじめと、それに逆らった相手をぶったおせる、永平寺の「拳法」ってなんなんでしょう。

実在するのかレベルで気になる。武山少林寺ではないのだ。


コメント欄より。角岡伸彦氏が、この本を批判している

やじま

その本、かなり梶原一騎先生的なノンフィクションというかフィクションというか。
https://kadookanobuhiko.tumblr.com/post/167512723599/%E4%B8%8A%E5%8E%9F%E5%96%84%E5%BA%83%E8%B7%AF%E5%9C%B0%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%82%80-%E2%91%A0


id;gryphon

かなりに長く(何本も記事がある)辛辣な批判ですね。「永平寺の坊主は、本当に強いか」問題はさすがにこの膨大な批判でも触れられない論点ですが、もとより出てくる人物の「発言」ともしているし、よくわからんですね。ただ角岡氏が上原氏を批判した文章を書いている、という時点ですごく興味深いです。野村進氏が石井光太
氏を批判した時以来かも。

石井光太「遺体」選評騒動 ..
http://kobe59.blog.fc2.com/blog-entry-360.html

ブログにコメントを転載させてもらいます