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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

新刊・新番組メモ(トクサツガガガ、今日の早川さん4、お好み焼きの物語)

トクサツガガガ(18日放送)


トクサツガガガ (15) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ (15) (ビッグコミックス)



あたしは連載開始、相当に早い時期にレビューしたと思う
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その後もけっこう書いている
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今日の早川さん

今日の早川さん4

今日の早川さん4



お好み焼きの物語(トークライブもあり)


お好み焼きの物語 執念の調査が解き明かす新戦前史

お好み焼きの物語 執念の調査が解き明かす新戦前史

故横田順彌氏の膨大な蔵書は、今後どうなるのだろうね(再論:死後の蔵書・コレクション処分について)

きのうに続き、横田順彌氏の話なのだが、即物的な話。
横田順彌氏は「古書コレクター」でもありました。
氏の、蔵書をめぐる逸話を追悼ツイートから。


あのへんの界隈は、コレクションをめぐる珍談奇談が「お家芸」のように伝わっておりまして、野田昌宏矢野徹伊藤典夫との古本争奪戦を行う「コレクター無惨!」は日本SFベスト集成にも収録されたぐらいだ。
いまは「レモン月夜の宇宙船」というエッセイ集に収録されているようです

レモン月夜の宇宙船 (創元SF文庫)

レモン月夜の宇宙船 (創元SF文庫)

野田氏が逝去された時、この内容について追悼文で触れていたので再紹介しよう。

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神田の神保町にはかつて、北辰一刀流の道場があり、他流試合も華々しく行われた(と思う)が、一番有名な「神保町の決闘」とは、上の「コレクター無惨!」にある、伊藤典夫とのSFペーパーバックをめぐる争いである。
今まで二束三文で、自分しか集めていないはずと安心していた野田大元帥の隙をついて、つぎつぎと棚から貴重本を奪っていく謎の男。対抗するもなかなか相手も一歩も引かず、ついに野田氏は「俺と同じくSF本を集めている謎の男よ、一度会おうではないか」と街に張り紙をし、ついに対面する。
それが伊藤典夫であり、その後はヒトラースターリンのような相互不可侵条約を結ぶ(笑)。
ウィキペディアの「野田昌宏」にもあるが、蔵書は先に死んだ人のものをもらうことになっていた。
もちろん古きよき時代のSFファンらしいジョークの意味もあるが、上の作品の中でも、野田氏がその蔵書をトラックに満載して新居に引っ越す時、バランスを崩して荷台から落ちそうになったとき、「(手伝いに来ていた)伊藤の目が『こいつ、このままトラックから落ちて死なねぇかなあ…』という目をしていた」と回想している(笑)。もっとも野田氏は野田氏で、伊藤氏に薬物入りの茶を飲ませてコレクション無償譲渡契約書にサインさせるプランだったそうだが(笑)。


そんな寄り道してる場合じゃなくて、本題に。本の題に。

要は、そんな系譜にある横田順彌氏の蔵書だ。もちろん「古本界隈」におられた方だから売る側との人脈も相当にあり、どこかが一抱えで保存しない限りは、良心的な形で引き取り、次のしかるべき愛好家に適切な価格で再販売されていくのだろう。それでいいではないか、と言われればそうかもしれない。
しかし、あのような一才能が集め、体系的に「これは《明治の野球》の棚へ…これは《戦前のへんな宗教》の棚へ…」と分類した、今現時点でのコレクションそれ自体が「知の体系」であることももちろんだ。


しかし…残された血縁者の方々が、たとえば趣味嗜好や興味の方向性がまったく一致していて、自発的にすべて保存したいというならともかく、義務感のようなものだけですべて現状のまま保存すべきだ、とももちろん言えない。

そこで、「寄贈」という話も出てくるのだが、かなしくも仕方ない話。

mainichi.jp
 フランス文学者で元京都大教授、桑原武夫さん(1904~88年)の遺族から寄贈された蔵書約1万冊を、京都市が2015年に無断で廃棄していたことが、遺族側関係者などへの取材で分かった。利用実績が少なかったことから「保管の必要はない」と判断したという。市教委は判断が誤りだったと認め、遺族に謝罪した。

そう、今はかなりの文化施設でも、「もらっても置く場所が無いし…公開も難しいし…」とこういう寄贈図書の受け入れには二の足を踏むのだそうだ。

togetter.com

それはそうだろうねえ。
こちらは、そういう例を乗り越え、個人蔵書と資料が学問の府で知の源泉として活用された、幸福な超超超レアケースの場所。
www.meiji.ac.jp


そして、
大塚英志事務所のtwitterで、こんなツイートがある。(横田氏訃報の前のツイートだよ)



自分が2年前に、小説仕立てで考えた「図書館霊園」という話と共通するものがあるので、考えさせられた。

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「大学教授だった父親がこの前亡くなりまして・・・・・・研究者で、自分の本をそれは大事にしていましたし、いろいろ資料も集めていましたから、本を処分するのもどうも忍びなくて…こちらでなら、本を受け入れてくれると聞きまして」

「ありがとうございます。当社ではいくつかのコースに分かれています。
1:しかるべき広さのスペースをご提供し、故人の蔵書や資料をそのまま独立した『〇〇さん文庫』として管理するコースです。オプションで机やいすなどの調度品も持ち込み可能で、料金によっては、故人の生前のお部屋にきわめて近づけたお部屋とすることも可能です。もちろん別料金で、目録などもこちらで作成いたします」
 
2:故人の蔵書と資料を「〇〇さん資料」として独立させますが、一般開架にほかの方のものと並べて管理するコースです。
 
3:故人の蔵書を、普通の図書館的な一冊として使わせていただくコースです。末尾に「XXX年〇月〇日没の〇〇さん寄贈」と貼らせていただきますが、その後破損や老朽化が進んだら廃棄することもあります。ですが、ある意味で本の「天寿」を全うさせることができます


「お値段はいかほどでしょうか」
「は、それぞれ、コースの料金は・・・・・・・」


これを考えるきっかけとなったのは、数年前の、同じく大変な(世界レベル?)の蔵書家であった彼…「渡部昇一逝く」という報道だった。

d.hatena.ne.jp

http://d.hatena.ne.jp/shins2m+new/20140708/p1


渡部先生の書斎に案内していただきました。

2階建ての書斎には膨大な本が並べられており、英語の稀覯本もたくさんありました。伝説の『ブリタニカ百科事典』第1版の初版をはじめ、歴代のブリタニカもすべて全巻揃っていました。ちなみに先生の蔵書は約15万冊だそうです。これは間違いなく日本一の個人ライブラリーでしょう。
(略)
渡部先生はおそらく世界一の蔵書家です。実際、10年以上前に洋書だけの先生の蔵書目録を作成されたそうですが、それを見たイギリスの古書店主たちが「これだけの質と量を兼ね備えた個人ライブラリーはイギリスにも存在しない」と言われたそうです。凄い!

故渡部氏の、相続のあれこれの手続きも済んだだろう。蔵書がどうなったか…たぶん、散逸を免れた、という結果は聞こえてこないだろうね。

これは、過去のブログ記事のどこかに書いたが見つからないが、ノンフィクション作家やジャーナリストの「取材のためにあつめた資料(貴重な証言録音)」なども、その後の散逸や、著者死後の引継ぎ先などはだーれも考えていない、ということがほとんどらしい。猪瀬直樹氏だけは、そのへんのことを考えた準備をしているとか。


そんな話や議論を踏まえた上で、あらためてコレクターとしても功績ある横田順彌氏の逝去を悼みつつ「『横田コレクション』はこのあと、どうなっていくのだろうね」ということに注目してもらえれば。

参考図書

オタクの逝き方

オタクの逝き方

【訃報】SF作家・明治研究家の横田順彌さん逝去。「天狗倶楽部」再評価もこの人の功績だったのに…


詳しくは、そして各界の反応はこちら参照
togetter.com


格闘技界で言えば、1993年にUFCがスタート、そして「グレイシー柔術」がとんでもない旋風を巻き起こした時に「グレイシー柔術前田光世直伝?なんだそれは?」とスタートした時に、少なくとも一般人にとっては、研究書は横田順彌の本しか入手できなかった、と言えば当たらずとも遠からずだった。
それはこの本。

明治バンカラ快人伝 (ちくま文庫)

明治バンカラ快人伝 (ちくま文庫)

自転車世界無銭旅行者中村春吉、世界柔道武者修行者前田光世(グレイシー柔術元祖)、虎髯弥次将軍吉岡信敬…日清、日露、第一次世界大戦と、日本が近代国家になるための試練をくぐり抜けなければならなかった激動の時代を、そのバンカラ精神で痛快に生き抜いた明治の“快人”たち。「明治快人列伝」を増補した決定版。

たしかこの本は、研究者たる横田氏本人がこれをもってよし、決定版とするのではなく「この本を契機に、彼らや彼らの時代を、皆さんでもっともっと調べてほしい」みたいなアジテーションが後書きに載っていたと記録している。本当にこの時の横田氏の「道しるべ」がなかったら、グレイシー柔術の研究はもっともっと困難だったろう。
※もちろん、こういう例外もいたことは承知
http://togetter.com/li/600660


そして、そういう明治研究の中から「彼らの中の面白い連中を登場人物に、同時代の実際の歴史と、物語上のこの時代のいろいろ(H・G・ウエルズ「宇宙戦争」、コナン・ドイル「失われた世界」など)をごちゃまぜにした冒険譚を描いてみようか」という試みまで生まれた。

火星人類の逆襲 (新潮文庫)

火星人類の逆襲 (新潮文庫)

人外魔境(ロストワールド)の秘密 (新潮文庫)

人外魔境(ロストワールド)の秘密 (新潮文庫)


古典SFのさらに古典を探す彼の研究結果は、たとえば「はたらく細胞」と同じような発想の作品(体内の仕組みの擬人化)が、明治にすでにあったことを教えてくれる。

ほかにも、その研究は…



と同時に、落語かSFかわからないような「ハチャハチャSF」まで……思い出は尽きない。「まだらのひもの」なんて思いついてもふつうは書かねぇよ(誉め言葉)

……本当に、お悔み申し上げる一方で惜しすぎる。

不謹慎な暴言であることを承知でいうが「亡くなるにしても、せめてあと1年ねばって、大河ドラマ『いだてん』を見て、天狗倶楽部について語ってから逝ってくれ」みたいなことを愚痴りたくもなる。

この前、書いたばっかりだった。
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天は、才能あるものを手元に置きたがり過ぎる。

庵野秀明氏、シン・ゴジラ制作時に「皇室厳禁」を東宝から言われてたらしい(笑)

togetter.com

こちらのコメント欄から、該当の文章を抜粋。

ロ @mouth0717 26日前
この映画を見て右翼的だと感じる人間がいるらしいのが理解できない。組織のはぐれものチームが機転と連携で状況を切り抜けて逆転勝利する話なわけで、むしろ左翼的にすら感じるのだが。なにしろ内閣は"総辞職"するし、皇室に至っては存在にすら触れられてない。日本の命運を託されたのは上が邪魔でなかなか出世できないでいる、いわゆる"持たざる者たち"の類型だろう。

OOEDO @OOEDO4 26日前
mouth0717 そういえば「野党、国会が描かれていない」という話には「皇室も描かれてないぞ」という別の論点が出てきます

超破瓜@椰子教団広報 @super_haka 26日前
ん、そもそも歴代「ゴジラ」関連、皇室に触れた場面あったっけ?シン・ゴジラ」は触れると面倒臭い(関連で余計なシーン挿入→連続性を失う)のでオミットはありえるけど・・・・。あっても「政府対応で一言」コースだな。

上野 良樹@規制中 C95お疲れ様でした! @letssaga3 25日前
super_haka 東宝から天皇には触れないようにお達しがあったという発言を見かけましたが、ソースは未確認です。 https://twitter.com/__ume_y/status/946651638411886592

超破瓜@椰子教団広報 @super_haka 25日前
ソース無しか・・・・まぁ、この映画に限ってだけれど、皇室は要素としては不要だからなぁ・・・・ letssaga3


※連続コメントをひとつにまとめます

上野 良樹@規制中 C95お疲れ様でした! @letssaga3 52分前
super_haka ありました。『THE ART OF SHIN GODZILLA』の庵野秀明インタビュー。「(引用者注:2015年時点での東宝サイドからの要望は)2015年に入ってからはほぼないですね。大きく言われたのは、近隣諸国の国際情勢については劇中での明言を避けて欲しいという要望と、皇室に関しては一切触れてはならないという厳命の2点です」(前掲、500頁)と。

アマゾンではカタカナ表記の「ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ」 

ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ ([バラエティ])

ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ ([バラエティ])

シン・ゴジラ』の詳細全記録集が、豪華ハードカバー上製本で発売決定!
2016年7月29日に公開される12年ぶりの「ゴジラ」シリーズ最新作『シン・ゴジラ』。
脚本・総監督は庵野秀明、監督・特技監督樋口真嗣、出演は長谷川博己竹野内豊石原さとみ。キャッチコピーは「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」。日本映画界期待の新作です。
映画『シン・ゴジラ』はどうやって生まれ、作られたのか、そのすべてがわかる書籍が発売決定!
シン・ゴジラ』制作のために描かれたデザイン画・イメージボード・資料写真等を収録した画集・写真集であり、スタッフインタビュー・メイキング記録もたっぷり収録した公式記録集です。
庵野秀明総監督のロングインタビューも独占掲載!
古今の「ゴジラ」ファンだけでなく、映画を愛し楽しむすべての人に読んでいただける、現代の映像クリエイター達の戦いの記録です。
外箱と本体の間にあるのは付録の「完成台本」! 台詞、ト書き、テロップに至るまで全て映画本編と同一内容を収録! もちろん役名役職記載のキャスト表付き。
企画メモをはじめ、庵野秀明による数十回にわたり執筆・改訂が繰り返されたプロットおよび脚本から6種を採録!
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【収録内容】(予定)
庵野秀明インタビュー(本書のみの独占掲載) 7万字以上の大ボリューム!
・主要スタッフインタビュー
樋口真嗣尾上克郎前田真宏竹谷隆之鷺巣詩郎、山内章弘、佐藤善宏、大屋哲男、佐藤敦紀、山田康介、林田裕至、佐久嶋依里、山田陽、野口透、稲付正人、三池敏夫摩砂雪
・『シン・ゴジラ』はこうして作れた!

letssaga3 補足しますと、元々東宝側は、従来のゴジラ作品のように、人間ドラマを重視した筋書きを望んでいた。しかし庵野氏は、ゴジラ出現を現実的に描くなら、官邸側を舞台の中心にすべきと考えていた。東宝側の要望に添った脚本も作ったが、「僕が最初にやりたかった映画と全く違う物になっている」と強く感じ、降板するといいだした。結局、東宝側が折れて、ほぼ庵野氏の構想通りの筋書きになった、という話でした。
 
letssaga3 letssaga3 庵野氏は官僚、自衛官、政治家らへの取材を重ねて、劇中でも可能な限り史実で取るであろう行動から「何も足さない。何も引かない」ようにした。「巨大不明生物」の呼称も、実際の官僚の意見をそのまま採用したとの事。なので、私のような人間が、官僚の取るデモへの態度を不愉快に思ったのは、むしろ庵野氏の狙い通りの反応です。
 
なお、シン・ゴジラ世界も、東日本大震災を経験した世界であるとの事。当初は「3.11」に直接触れる台詞もあったが、最終的に原子力規制庁の存在で、震災があった事を示唆するに留めたという話でした。

「拳児2」第3話公開。「何とか生活できるが、親を養う余裕まではない」ってリアル…

www.sunday-webry.com



第3話は、新登場人物や、本伝「拳児」に登場していた人たちの再登場で面白くはあったのだが

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拳児2 拳児は物書き暮らし、1人暮らしはできるが親の面倒までは…
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拳児2 拳児の親は、まだ孫の顔が見たいが…

拳児」といえば、おじいちゃんが教えてくれた八極拳の世界に興味と関心を深めていく拳児に、母親が「そんな拳法なんかにのめりこんで、変な人たちと付き合って! もっと勉強して進学校に行って、真っ当な職について!」とけしからんことを言う悪役で、「彼には彼の人生があるんだよ」と諭してくれたお父さんがいい役だったが、実はお母さんが正論だったのでは…ということは考えちゃダメッ。

その話、過去にここでもしたな
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というかお父さん、「俺達が元気なうちは自由にやれ、動けなくなったら面倒見てもらうから」って、それってどうなるのかな…看護離職……いやいや、考えるのをやめよう。「まだ孫の顔を見るのもあきらめてない」も、けこう重い言葉だな…


てなことを思うままに、張老師と再会する拳児。老師が、車いすになっていてね…

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拳児2 車いすの張老師
さらに、当然な話ではあるが、あのヒロインは主人公以外の誰かと結婚してて……

本筋はちゃんと痛快活劇なんだけど、だんだん「劇画オバQ」的に読んでしまうぞ、こっちが(笑)

本当なら、チャイニーズ・マフィアの一員になっている(ホント)拳児さんは、その人脈を生かして「ほほう、拘束されたカナダ人を2名助け出したいと…いいでしょう、私の方から動いてみましょうか」「ありがとうございます、とりあえず前金で120万ドルを」とか、そういう仕事をやっていて裕福という設定でも良かった気がするんだけどね(笑)

大河ドラマ「いだてん」第二回から、「坂の上の雲」オープニングなどを思い出す人々

「いだてん」第二回では主人公の立身出世というか、どうして東京に出てきたのか、という話が中心だったのでそれを受けての話題。






www.youtube.com


ナレーションというのは「個性」が「巧さ」を凌駕する部分もあって、それはそれで正しい事だと思うのですが、あらためてNHK坂の上の雲」のナレーションを聞くと、うまさと個性が両方とも際立っていますな。
誰だったかな。
渡辺 謙かよ……「新聞の文字は小さすぎて読めない!!でしょ?」だけじゃないんだ。

新装版 坂の上の雲 (1) (文春文庫)

新装版 坂の上の雲 (1) (文春文庫)

坂の上の雲 第3部 DVD-BOX

坂の上の雲 第3部 DVD-BOX

「日本の味」だけじゃない!世界をまたぐ、納豆の旅…高野秀行「謎のアジア納豆」

謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉

謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉

日本は「納豆後進国」だった!?

誰もが「日本独自の伝統食品」と信じて疑わない納豆。だが、アジア大陸には日本人以上に納豆を食べている民族がいくつも存在した。
日本の納豆とアジアの納豆は同じなのか、違うのか?
起源はどこなのか?
そもそも納豆とは一体何なのか?
納豆の謎にとりつかれたノンフィクション作家は、ミャンマーやネパールの山中をさまよい、研究所で菌の勉強にはげみ、中国に納豆の源流を求め、日本では東北から九州を駆けめぐる。
縦横無尽な取材と試食の先に見えてきた、納豆の驚くべき<素顔>とは?

日本人の常識を打ち砕く、壮大すぎる「納豆をめぐる冒険」!



この本でも導入部などで紹介されているが、 日本人は外国人に対して「納豆を食べられますか?」と聞くのが好きだ。そんで「はい、大好きですよ」と言うと喜ぶし「いやー、あれはね、さすがにちょっと駄目です」「なんであんなの食べるの?わかんない」とか言われても「そうでしょそうでしょ、あれは日本人じゃないとちょっと分からないよねー」とそういう逆方向の喜び方をする…と。くーねるまるたさんは納豆食えるかな。たぶん食えるはずだ。

この本は、そんな状況に一石を投じるべく、辺境をゴリゴリと旅行し続ける高野秀行氏が著した本だ。…だから「えっ、あんなに危険かつ物理的にアクセスしにくい地域にゴリゴリ旅をし続けてた高野さんが、なんか気軽そうなテーマで書いてるなあ」と思う人もいるかもしれない。それは半分正しくて半分間違ってて…彼がアジア地域の辺境を旅行していた時に、あまりにも味も香りも日本と同じような「納豆」が食卓に並び、その衝撃から「納豆というものは、世界でどのように広まってるのだろう?作り方や食べ方はどう違うのだろう?」という風にテーマを広げて書いたということです。


その調査のプロセス自体が面白いかなこうやって一冊の本になってるのだけど、今回はちょっと手を抜いて結論的なところだけ紹介させてもらおう。
まず世界中の「納豆」は、やっぱり最強の菌との評判も高い納豆菌によって大豆を醸すと言う点は同じなんだけど、世界的に見ると今、日本の納豆の食べ方は、画一的になっているようだ。
引用する。

ある時サイさん(タイ北部に暮らす少数民族出身で東京に20年暮らしている人)に「日本の納豆はどうですか?」と聞いてみた。すると彼曰く「美味しいけど、日本の納豆は味が一つしかないからね」
意表をつかれた。味がひとつしかないって…まるでプレーンしかないヨーグルトとか、バニラ味しかないアイスクリームみたいな言われようだ。
サイさんは続ける。「山賊の人は豆でも食べるし、乾燥させてあぶっても食べる。唐辛子味もあれば、にんにくや生姜の味もある。いろんな味や食べ方があるんですよ」

結論から言うと、日本以外の納豆消費国では…日本も一部地域ではいまだ食べられている「納豆汁」のように、「納豆を、旨味の調味料として使う」地域が多いのだと言う。

うーん、 自分も「納豆汁」というのは言葉で聞いたことがあるだけで実際に食べたことはない。というかイメージ的にはちょっと遠慮したい。

ただ、そもそも普通の醤油やタレで食べる納豆も、大豆が発酵したゆえにタンパク質の「うまみ」が味わえる様になるから食べているわけだ。その旨みを、調味料として使う、というのが結構アジア多数派の納豆使用法らしい。

よく考えれば調味料が発酵食品であるというのは、そもそも味噌・醤油がそうであるし、中華料理では「腐乳」何かも使われる。チーズも香り付けに使うわけだし、何もおかしくない。ことに、タンパク質の発酵させた食品というのはそれぞれの風味があり、これがまた、馴染みのあるその国や地域では「これなしでは何も始まらない」と 愛好されるがよそからは「ウッ」となるわけです。発酵食品に関しては「相互不可侵」が一番賢明でありましょう。美味しんぼでもこの辺は何度もネタになってる。最初は相互に発酵食品をディスり合い、最後はその美味しさを相互に理解して和解する…みたいな。やってるうちにお話づくりがどんどん雑になって言ったけどさ、あの作品は(笑)

まあそういうことを踏まえて、高野さんは各国の納豆作りや納豆売りの現場を取材し、実際に作ったり食べたりしている。納豆は日本では藁の納豆菌を使ったが、他の国では「シダ」を発酵の菌のもとにしたりしているようだ 。


あ、さっき少し書いた「納豆汁」なんだけど、この本によれば

江戸時代の後期幕末に近くなるまで、納豆の食べ方はほぼ全て納豆汁なのである。
例えば千利休は死ぬ前年からの茶会で使った料理の献立を書き残している。「利休百会記」と呼ばれるこの記録には納豆汁が全部で7回、登場する。納豆汁が冬だけの料理であることを考えれば随分多い。しかも成り上がりの天下人である秀吉にもグルメ大名の細川幽斎にも納豆汁。つまり誰にでも納豆汁を出していた。
(略)
例えば蕪村は「朝霜や室の揚屋の納豆汁」と詠んだ。(略)江戸では冬になると朝、納豆売りが、煮豆を一晩発酵させただけで作った「一夜漬け」のような納豆をざるに入れて売っていた。庶民はそれを買うと、 包丁で叩いて、つまり細かくして汁にしていた。「納豆を、たたき飽きると春が来る」なんて川柳も詠まれていたと言うから、冬場はよほど納豆汁を食べていたようだ。


そして、 この「納豆は出汁であり調味料」という点から、「納豆は周辺民族に残っていることが多い」と、この本は語る。それはなぜかと言うと、海に面した、そして大きな流通市場みたいなものがある地域だと、どうも海産物の出汁の方にみんな行っちゃうっぽいから(笑)。うーんそうなのかもね。大豆はやっぱり痩せた土地で作られることも多い。少し経済的に恵まれない、流通的に、地理的に途絶している、そんなところで「代用的な出汁」であるという面もあるようだ。


そんな調査をしながら、高野さんは日本国内での納豆取材も進め、伝説伝承も多い「納豆の起源」も探って行く。
実は自分がこの本を手に取った時、その理由の一つが子供の頃、矢口高雄の漫画で「納豆の誕生」伝説を知っていたからであるのだ。ごく簡単にいえば「前九年の役後三年の役のどっちかで、東北遠征をしていた源義家の軍で、わらのこもに包んだ煮豆が発酵。はじめは腐ってる!と捨てようとしたが、香りも味も実に美味だったのでそのまま食べることにし、製法も広まった」というものだ。
自分がよんだのは「ニッポン博物誌」というタイトルだったが、 その後ちょっと違ったタイトルの文庫にもなっていたな…何と言ったかな…
ここの過去記事でもちょっと触れてた。
「もやしもん」補遺−発酵無罪、醸造有理。 - INVISIBLE DOJO



高野さんは、そういう伝説がどこまで本当なのか、という話を探りながら今話題の「作られた伝統」問題の事例を色々と発掘していく。その部分もちょっと面白いんで、そこにも注目してほしいです。一時期、学問としても提唱された中尾佐助照葉樹林文化論」についても触れられ(実はこの文化論を掲げれば、実は納豆の世界的な分布も、一見説明がついてしまう面がある。だから逆に厄介なのだ)、慎重にその真偽や議論の強さ弱さを検討している。


単純な食べ物エッセイ、食べ物ノンフィクションになる危険性もあったこの取材を、見事な広がりと深みのあるものにしたのは、 さすが高野秀行、と拍手いたしましょう。この後の、更なる発展拡大を期待する。(了)